Vol.51(2026年9月)
三田 牧
(文化人類学)
新しい世界へ踏み出そう
〜旅に出て知らない人と出会う経験をする〜
主な研究内容を教えてください
大きくは二つあります。一つは沖縄を中心とした漁民社会の研究です。漁師さんたちがどのように海と関わりながら魚を獲り、また魚売りの人たちがどのように魚を読み、生活文化を築いてきたかを調べています。もう一つはミクロネシアのパラオ共和国を対象に、日本統治時代にどのような経験があったのかを、パラオの人々や沖縄からパラオに渡った人々の視点から研究しています。
ゼミではどのような活動を行っていますか?
学生たちが自分自身でフィールドワークを行い、その経験を卒業研究へとつなげていきます。私はその応援をする係です。学生自身が、自分のフィールドを見つけ、フィールドへ関与しながら研究を深めていくことを大切にしています。

ご著書 『海を読み、魚を語る』 (コモンズ、2015年)
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糸満でお世話になった漁師のおじさんの手作りの「ビ ン玉」です。「ビン玉」とは、漁の網などにとりつける浮き のことです。 この漁師さんが亡くなった後、本を出版し、それをお家に持って行きました。すると、 ご家族がこのビン玉をくださいました。
学生時代に印象に残っている経験はありますか?
大学時代、ニュースサークルを作りました。大きな大学で面白い出来事がたくさん起こっているのに、それを知らないのはもったいないと思ったんです。取材をして新聞に書きたいと思いました。そこで、関西の大学のニュース連盟に入り、自分の大学のサークルを作りました。
だんだん仲間が増えて最終的には六人ほどのサークルになりました。大学内の出来事を取材して紙の新聞を発行していたのですが、広告を集めたり、締め切りに追われたりと苦労も多かったです。ニュースは待ってくれませんからね。それまでジャーナリストへの憧れがありましたが、その経験を通して自分には向いていないかもしれないと思うようになりました。
現在の学問を選んだきっかけは何ですか?
学部では心理学を学んでいて、カウンセラーになるのもよいのではないかと考えていました。しかし大学3年生の時に初めて一人で海外へ行った経験が大きな転機になりました。さまざまな国の人たちと出会うことがとても楽しくて、異なる文化や社会を通して人を知りたいと思ったんです。
そして文化人類学の大学院へ進学しました。初めての調査地だった沖縄の漁師町で、人から学ぶことの楽しさを知りました。海や魚のことを教えてもらいながら生活する経験は、それまでの学生生活とは全く違うものでした。「人から学ぶことはこんなにも面白いのか」と感じ、この道を一生続けようと思いました。
沖縄やパラオに着目した理由を教えてください
小さい頃から、歴史の中で支配された側の人々に関心がありました。日本でいえば沖縄や北海道などです。調査を進めるうちに、戦前に沖縄の漁師たちがミクロネシアへ渡っていたことを知りました。そこで「次の調査地はどこにしよう」と考え、地球儀を見ながら選んだのがパラオでした。実際に行ってみると非常に興味深い社会で、今も研究を続けています。
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沖縄・糸満の魚屋でお手伝いさせて もらいながら調査していました。
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パラオでオーラル・ヒストリーの聞き取り調査。
パラオで学んだことの中で、若い世代に伝えたいことはありますか?
パラオでは、上に立つ人ほどコミュニティーのために働くという考え方があります。私がお世話になった村のリーダーも、住民がお腹を空かせていないか、困っていないかを常に気にかけていました。
私自身もその方に守られていたことを後になって理解しました。外国から来た女性の大学院生が安全に暮らせるよう、信頼できる家庭を紹介し、地域の中で支えてくれていたのです。リーダーとは権力を持つ人ではなく、そのコミュニティーで暮らす人々の生活を保障する責任も持っているという考え方は、とても印象に残っています。
異文化の中で生活するときに大切なことは何でしょうか?
まず、自分を守ってくれる人を見つけることです。文化やルールが分からない中では、間違いを教えてくれる存在が必要です。私も沖縄やパラオで、家族のように接してくれる人たちに支えられました。
また、自分は最後まで「よそ者」であるという意識も大切だと思います。どれだけ社会に入り込んでも、完全な当事者にはなれません。そのラインを守るべきだと思います。そのラインを守りつつ、相手への敬意を持ちながら学ぶことが重要だと思います。
AIが発達する時代に、文化人類学にはどのような価値がありますか?
文化人類学は自分の足で現場に行く学問です。自分の目で見て、自分の体で経験し、人々と一緒に過ごしながら相手を理解しようとします。情報だけを集めても、本当の意味で相手の価値観を理解することはできません。
人類学では相手の立場に立って考えることを重視します。実際にその社会の中に入り、人々と働き、暮らしを共有するからこそ見えてくるものがあります。その部分はAIには代替できないのではないかと思います。
人文学を学ぶ意義について教えてください
人文学は「役に立つかどうか」だけでは測れない学問だと思います。人が豊かに生きるために必要な感性や想像力を育てるものです。
私たちはつい偏差値や成績で人を評価しがちですが、一人ひとりに違った能力や可能性があります。人文学を通して、自分らしさや自分だけの価値を見つけてほしいと思います。そして社会の尺度だけではなく、自分自身の尺度をもって生きられる人になってほしいですね。
学生に求めること、経験してほしいことはありますか?
旅に出てほしいです。海外でも国内でも構いません。知らない場所へ行き、知らない人と出会う経験をしてほしいと思います。
私も学生の頃、やりたいことを見つけるまでに、新聞づくりをしたり、心理学を学んだり、海外へ行ったりと、さまざまなことを試してきました。やってみなければ、自分に向いていることは分かりません。
学生時代は時間も体力もある時期です。少し勇気を出して新しい世界へ踏み出してほしいと思います。若いうちの挑戦や努力は必ず将来の財産になります。自分で扉を開き、自分の可能性を広げていってほしいですね。
取材・文/神戸望琴
取材後の感想
多くの国や人が存在する中で日常は人の数だけ存在することを実感した。世界は広いのだなとワクワクした。
<神戸望琴>
歴史や文化は、現地で暮らす人々の視点から理解することが大切だと感じた。歴史は教科書だけでは分からない背景や人々の思いがあることを知り、とても興味深く、学びを深める貴重な機会となった。
<勝山颯大>
三田 牧プロフィール
1991〜1995年
京都大学 教育学部
1995〜1997年
京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程
1997年~2002年
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程
2004年~2007年
Belau National Museum(客員研究員)
2007年~2010年
国立民族学博物館(機関研究員)
2010年~2013年
日本学術振興会特別研究員(RPD)
2013年〜現在
神戸学院大学(准教授)

