Vol.25(2013年10月)
福島 あずさ

私を変えたモンスーン

気象、といえばお天気お姉さんしか思い浮かばない私たち。
その奥深さを知るために、福島先生にインタビューしました。
取材 植原 数馬

 

 

大学に入るまでは、将来は建築関係の仕事をしたいと思っていました。部屋のインテリアを考えたり、建物を見に行ったりするのが好きだったので。それが今の専門である気象の研究へと変わったきっかけは、大学2年の夏に参加したネパールでの植林活動のボランティアでした。

 

運命を変えたネパールでの植林活動

大学2年生の夏休み、私ははじめてネパールへ行きました。そのときは約3週間滞在して、薪や家畜の餌を得るために伐採され禿げ山になった場所に、木を植える活動をしました。この活動の最中に私の人生を変えるできごとがありました。それは、モンスーン(※1)の雨に遭遇したことでした。それまで、モンスーンというのは日本の梅雨のように、しとしと雨が1日中降り続くものだと考えていました。しかし、訪れたネパールでは、モンスーンの時期にもかかわらず、日中は強い日差しが照りつけ、午後になると夕立のような雨がざーっと降ったので、とてもびっくりしました。かと思えば、4~5日間土砂降りの雨が続くこともあり、ずいぶん日本とは雨の降り方が違うなぁと感じました。このとき現地の人が、「ネパールの天気予報はあまり当たらない」とか「農業や林業に天気予報が活かせていない」と言っていました。そこで一気に、ネパールの気象・気候について勉強したら私でもなにか役に立てるのでは?という気持ちになって、独学で勉強をはじめました。後になって、あのとき降り続いた豪雨は、数10年に1度起こるぐらいの珍しいできごとだったことを知りました。
いろいろ勉強しているうちに、実はヒマラヤはモンスーンの成因にかなり重要な役割を果たしていることがわかってきました。現在の学説では、もしヒマラヤがなければアジアモンスーンは今のようにはっきりと見られなかったと考えられています。インド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートにぶつかって、その境目がヒダのように盛り上がってできた山がヒマラヤです。大陸がぶつかる前には、現在のようなモンスーンの気候が見られなかったことを示す証拠があり、ヒマラヤの隆起にともない、現在のようなアジアモンスーンが成立したといわれています。このためヒマラヤ山脈が大気に与える影響がとても大きいことがわかっています。また、ヒマラヤの麓のネパールでは、季節内変動という仕組みによって、インドの広い地域と雨の降るタイミングが異なっていて、これが、モンスーンを解明するうえでとても重要であることも知りました。

 

気象を学びに大学院へ

こうして勉強を進めるうちに、本格的な研究をしてみたいと思うようになり、東京学芸大学の大学院修士課程に進学しました。インターネットで探すと、モンスーン気候を専門とする先生がいたので、受験を決めました。私が入学したのは教育学研究科社会科教育専攻の地理学コース。ここでは気象・気候学が含まれる自然地理学だけではなく人文地理学や教育学も勉強しなければいけません。新しく覚えることがいっぱいで毎日が本当にたいへんでしたね。しかし、そのときに勉強したことやそこで出会った人たち(先生だけでなく、学生も)から学んだことが、とても役に立っています。なぜかというと、文系の研究者と理系の研究者が一緒になって議論することがあたりまえだったからです。その後進学した博士課程も地理学の教室だったので、今、人文学部の学生に講義をするうえで、なにがわかりにくいかを考えるとき、学生時代に他分野の人から受けた質問や指摘がとても役立っています。

 

気候変動について議論するフォーラムに参加

学生生活でいちばん思い出に残っていることといえば、院生のころ、Asian Young Leaders Climate Forumというワークショップ形式のフォーラムに参加したことですね。これは気候変動枠組条約第13回締約国会議(※2)に先立って行われたもので、アジア各国の青年たちが気候変動によって生じる問題やその適応策について議論しました。私はただの院生で、温暖化にかかわる政策について知識があるわけでもなく、さらに英語で行われるワークショップでは、内容についていくのがやっとでした。でも、このときの英語漬けの7日間から学んだものは大きかったですね。いろいろな国の若者とつたない英語を使って話したことが、とても印象に残っています。

 

建築と気象

ちょっと考えてみてください。実は気候は、私たちの生活や文化に大きな影響を与えています。たとえば建築。民家の家の屋根や土台などは、住んでいる地域によって違いますよね。北陸と沖縄の民家を比べてみましょう。
北陸地方の家の屋根は傾斜が急です。これは降雪量に関係しています。雪が家の屋根に積もってしまうと、雪の重みに耐えきれず潰れてしまいます。だから傾斜を急にして、少しでも屋根の上に積もる雪の量を減らそうとしているんですね。
沖縄の民家は暑さをしのぐため、風通しのいい作りになっています。間口を広くして風通しをよくし、暑い夏でも涼しくすごすことができます。一方で、夏から秋にかけて沖縄は台風の通り道ですから、屋根の瓦は飛ばないようにしっかりと漆喰で塗り固められています。建築に限らず気候という視点で私たちの暮らしや文化を眺めてみると、今までに気づかなかったことが見えてきます。気象を学ぶ意味はそういうところにもあるのです。

※1 インドや東南アジアにおける夏の季節風による雨季、または、雨季に降る雨。アラビア語の「季節」に由来。

※2地球温暖化防止のため、1992年の地球環境サミットで採択された気候変動枠組条約(UNFCCC)に参加する国々が、温室効果ガス排出防止策等について協議を行う会議。

気象学(きしょうがく)meteorology
大気現象を対象とした科学。その技術的応用に天気予報があげられる。
気象を解析する方法のひとつに総観法(synoptic method)がある。時間的に連続した天気図を見ることで、描き出された大気の動態を明らかにしていく。また近年では、リモート・センシング(遠隔測定)とスーパーコンピュータが気象学の発展に大きく貢献している。
気象学には応用分野として航空気象学、農業気象学、海洋気象学、水理気象学、気象災害論などがある。さらに、生体と気象の関係を研究する生気象学という分野もある。
地球温暖化やハリケーン等による大規模災害が多発する今日、注目される学問分野である。
参考資料:日本大百科全書(小学館)など

 

 

 

福島 あずさ

福島 あずさ(フクシマアズサ) 人文学科 人間環境領域
2012年3月 首都大学東京大学院都市環境科学研究科地理環境科学専攻博士後期課程修了
博士(理学)
2012年4月 神戸学院大学人文学部講師

(主な研究課題)
ヒマラヤ南麓におけるプレモンスーン季の降水現象