Vol.45(2023年9月)
鈴木 遥

環境を自分ごととして考える
いろんな見方にふれて、ぶれない自分の軸をつくってほしい

 

先生の研究分野とそのきっかけについて教えてください

私の研究分野は地域研究です。そのなかでもインドネシアの熱帯林保全についての研究をしています。
最初のきっかけは祖父がインドネシアからの熱帯材輸入に関係する仕事をしていたことを知った時です。その時は、祖父はそのような人だったんだなと思っただけでした。東南アジアの熱帯林保全について研究しようと考えたのは大学の時です。大学では森林科学(林学)という、森林の生態系や、林業に関する技術などを研究する学問を学んでいました。そこで、林業の歴史を学んだ時に、日本が東南アジアから木材を大量に輸入していたということを知ったんですね。そして同時に、東南アジアの熱帯林が減少しているということも知りました。
その時に、祖父の話と自分が学んでいることがリンクしたんです。自分はこの大きな社会の中に知らない間に組み込まれていたんだ、ということに気づいたんですよね。
大学って自分がどういう風に生きていくかということを模索する時期だと考えていて、私の場合は、この東南アジアの森林の問題を考えないことには人生の次の一歩を踏み出せないなと思いました。
そして、大学院に行くことを決めました。東南アジアの熱帯林の減少は文化や社会の問題であろうと考えたので、大学院は理系の大学院ではなく、地域研究を学べる文系の大学院を選びました。

インドネシアでの研究について教えてください

大学院の時に研究のために約2年半、インドネシアに行きました。私はここで人生観が大きく変わったと思います。行く前はとても視野が狭かったです。自然ばかりを見ていて、初期に撮影した写真を見返すと、木の写真ばかりです。
現地に行くと分からないことばかりでした。例えば、滞在場所を探したり、調査の許可を得るために、現地の人とコミュニケーションをとる必要がありました。自分から行動しないと調査が進まないため、言葉もわからないゼロの状態から挑戦したことでたくさんの学びが得られました。
それから、インドネシアのリアウ大学で教員としても仕事をしました。大学院に進学するころからいずれは教育に関わる仕事がしたい、特に地方を支える人材の育成に関わりたいと思っていました。インドネシアの大学では、急に停電したり、大雨で講義が突然休みになったりと、色々ありました。でもどの学生も一生懸命で、この時の経験が私を大きく成長させてくれました。

熱帯林を保全するとは具体的にどのようなことがありますか

熱帯に住んでいる人だけが熱帯林を保全するのではいけないと思います。
例えば、インドネシアでは熱帯林が拓かれて紙の原料になる木が植林されています。そこからつくられた紙は世界中に輸出され、私たちも利用しています。グローバルな市場の中で、私たちは知らず知らずのうちに熱帯林と関わっています。私たちも熱帯林と無関係ではないということです。
環境保全とはその人自身が環境をどのように捉えるかということに関係しています。環境は主体の周りに存在しています。みなさんにとって、みなさんが所属する人文学部は環境ですし、日本全体も環境ですよね。つまり主体が環境をどう考えるかが問題なのです。熱帯林保全の問題についても、自分にとって熱帯林はどんな存在なのかを考えることが重要だと思います。地域の問題を他人事として捉えずに、同時代を生きる自分にも関係している課題だということを意識してほしいと思います。
熱帯の生態系は複雑で、非常におもしろいです。熱帯で暮らす人々の文化に、魅力と大きな可能性を感じています。圧倒的な自然とうまく共存しながら生きる術には、私たちがこれからを生きぬくためのヒントがたくさん詰まっていると思っています。

今後の目標について教えてください

インドネシアの熱帯林保全の問題について日本人である私があれこれ調べて提言したり、一緒にやりましょうと言っても押し付けになることってありますよね。でも部外者だからこそ見えることもあると思うんですよ。
地域に関わる様々な人がどのように連携して地域社会をつくっていくことができるかということを、具体的な地域の研究とは別に、もう少しメタな研究としてやりたいということも考えています。
教育の目標もあります。それは、学生のみなさんが求めているものをその時々で届けられるような教育をすることです。神戸学院大学人文学部で仕事をはじめて3年目なのですが、教育は奥が深いということがようやく分かってきました。私の思いを伝えるだけでなく、みなさんにとって何が必要かということをもっと細かく観察してつかんでいきたいと思います。

インドネシアでの聞き取り調査の様子

インドネシアでの聞き取り調査の様子

新入生に対するメッセージは何かありますか?

大学では自分の軸をつくるということを一番やってほしいですね。
こんな見方もある、あんな見方もあると、自分を揺さぶりながら自分の軸をつくっていく。いろんなものに触れて自分の考え方をつくっていく。考え方っていうのは自分がどう生きていくかに繋がっていきます。
人文学部で色々な見方や考え方に触れて、自分の軸を育てほしいですね。
 
 
取材・文/石井萌花・宮内蒼太・山本侑依
写真/宮内蒼太
 

取材後の感想

物事のきっかけは近くにあるのだと思いました。家族や授業、土地を訪れた時など様々なところに転がっていることが分かりました。狭い視野で物事を見ていたのかもしれません。これからは広い視野を持って物事を見つめたいと思います。
-石井萌花

 
最も印象に残っていることは「地域の問題は自分にも関係している」ということです。主体がどう考えるかが重要で環境保全においても自分には関係ないと思うのではなく、自分事という意識を持つことが大切だと感じました。
-宮内蒼太

 
私の住んでいる環境はまだまだ狭いのだなと感じました。視野を広げていくために、色々な分野の授業を受けて様々な経験をし、自分の軸を大学生の間につくっていきたいと思いました。そして、学問と自分を結びつけて考えていけるように意識していきたいです。
-山本侑依
 
 

鈴木 遥 プロフィール

2011年
京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科
東南アジア地域研究専攻

 

2016年〜2021年
リアウ大学社会学研究科客員教員

 

2021年〜
神戸学院大学 人文学部 人文学科 講師