Vol.46(2024年3月)
前田 宏太郎

レキシコン?! 世界知識?!
人間の言語を作り出すシステムを解明する。

前田先生のことをまだ知らない学生も多いと思います。
自己紹介をお願いできますか?

私の専門は理論言語学です。特に「語」という単位に興味があり、主に英語と日本語の動詞の振る舞いを観察することを通して、人間言語におけるレキシコンの在り方について研究を行っています。
学部ではアメリカ文学を専攻していました。修士課程では当初、学習英文法を研究していましたが、「そもそも言語とは何か」という点に関心を持って、理論言語学の研究に進みました。現在は、主に日本語や英語の動詞の意味によってどのように動詞が使われるのか、例えば自動詞で使われやすいとか、他動詞で使われやすいといった観点で語彙意味論の研究をしています。

言語学に興味を持ったきっかけについて教えていただけますか?

振り返ってみると、高校時代に気になっていたことがありました。それは“walk”という動詞についてです。“walk”を自動詞として使う分には納得していたのですが、“walk a dog(犬を散歩させる)”になると“walk”が他動詞で使われることに違和感を覚えました。例えば“open”という動詞が自動詞や他動詞で使われることには違和感がありませんでしたが、やはり、“walk”については他動詞で使われることに違和感がありました。大学でアメリカ文学を研究している時は、その感覚を忘れていました。修士課程では、はじめ英語教育を研究していましたが、自動詞や他動詞をどのように説明するのか調べた時に自分が“walk a dog”に疑問を持っていたことを思い出しました。最終的には“walk a dog”がなぜ他動詞で使われるのかと思ったことが言語学に興味を持ったきっかけです。私の原点は“walk a dog”にあると思います。

理論言語学とはどのようなものなのでしょうか?

理論言語学とは、「人間はなぜ言語を使用できるのか」、「人間の言語はどのようなシステムで動いているのか」という問いを追究する学問です。人間が「文」を作り出すとき、その文の部品となる「語」や「語よりも小さい単位」の情報が入っているところを「レキシコン」と呼びます。その部品を組み合わせて「語」を作り、さらに大きな「句」を作り、最終的に「文」を作ることを統語論といいますが、私の場合は統語論に必要な材料を備えているレキシコンについての研究や、語がどのようにして作られているのかについて関心を持って研究しています。

今後の研究目標を教えてください。

大きな目標としては、「世界知識」が文の産出・理解にどのような影響を与えているのかを明確にするということがあります。世界知識というのは我々が持っている常識のようなものです。例えば、「リンゴは赤い」といっても私たちは果実が赤いのではなく、皮が赤いということを理解できると思います。「果実の部分は白いからリンゴは赤いというのは嘘だ」とはなりません。これは私たちが皮と果実の色は異なるということを知っているからです。そのため、世界知識は文を産出・理解するために必要な要素だと思います。世界知識を語の意味に含むのか含まないのかという議論もあるのですが、少なくとも私はレキシコンに世界知識は含まれていると考えているので、その関係を整理して、世界知識を含んだレキシコンの理論を作ることが目標です。

学生へのメッセージをお願いします。

大学は皆さんが思っているよりももっと自由だということを一番伝えたいです。高校までは様々な規則や基準に縛られて、ある程度常識が身についた状態で大学に進学したと思います。しかし、その常識は本当に合理的なものなのかを考えてみてほしいです。常識から一歩引いたところから俯瞰してみて「これは常識とされているけど自分には必要ないな」、「これは合理的な理由があるな」というように考えてみてください。これは自分が挑戦したいことも同じです。一度周りからの声を考えずに自分が挑戦したいことを考えてほしいです。大学は周りから縛られずに挑戦できるところで、もっと自由なところだということを伝えたいです。
私は古着が好きなのですが、服装も一つの個性だと思います。「服装も自由だ」ということも私から感じ取ってもらえると嬉しく思います。
また、人文学部には様々な分野の先生がいらっしゃるので様々な価値観を学べる良い環境だと思います。だからこそ、これまで縛られていた常識にとらわれずに伸び伸びと学んでほしいと思います。

取材後の感想

今回、前田先生に取材させていただいて言語学の奥深さを実感することができました。普段、私たちは特に意識することなく会話をしたり、文を書いていますが、その文を作るために語や語よりも小さい単位を組み合わせて一つ一つの文を作っていると教えていただき、人間に元々備わっている能力に驚きもありました。言語学について少し難しいというイメージがありましたが、取材を通して興味深い学問であると実感しました。
 
取材・文/宮内蒼太

 
 

前田 宏太郎 プロフィール

2016年
慶應義塾大学 文学部 人文社会学科

 

2018年
横浜国立大学 大学院教育学研究科 教育実践専攻

 

2023年
東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻

 

2020年〜2021年
独立行政法人日本学術振興会 特別研究員

 

2021年〜2023年
信州大学全学教育機構 助教

 

2023年〜現在
神戸学院大学 人文学部 講師