Vol.49(2025年9月)
曽我部 愛
(人と社会と自然科目群)

きっかけはゲームなどのサブカルチャー作品でした

先生の専門分野とそのきっかけを教えてください

 私の専門は、日本の中世史における天皇家に関するものです。中世では「王家」と呼ばれているので、「王家」についての研究になります。
 そもそも天皇は一人しかおらず、亡くなれば次の代が選ばれます。しかし中世の歴史を紐解いていくと、同時代に複数の上皇が存在していたり、兄弟間で皇位を奪い合ったりと、皇位継承の流れが極めて複雑であることに気づきました。なぜ中世の皇位継承はこれほどまでに複雑だったのか?それに対して天皇の母や皇后などの女院の存在や、兄弟皇子たちの立場がどう影響を与えていたのか?ということにも興味を持つようになりました。
 また、もともと女性史にも関心があったため、女性の歴史を振り返ると、女性天皇がいた時代があります。それは決して例外的なことではなく、ごく自然なものです。しかし、時代の流れで女性天皇は姿を消し、現代ではなくなっています。なぜそうなったのかも含め、「天皇家とは何か」を考える研究をおこなっています。

なぜその研究を選んだのですか?

 私は学部時代、日本史を専攻し学んでいました。日本史に興味を持つようになったきっかけは、ゲームなどのサブカルチャー作品からで、特に戦国時代や幕末に強く惹かれました。
 大学の卒業論文では、戦国大名・武田氏が家臣に「裏切らないこと」を神仏に誓わせるような誓約書を書かせていたことを取り上げました。しかし、大学院に進学してから、「推し」を中心とした時代や人物で研究を深めていくのは難しいと感じるようになり、卒論で扱った「神仏への誓い」からヒントを得て、信仰を切り口に研究テーマを見直しました。そして、戦国時代から離れ、鎌倉時代へと移っていきました。その中で特に注目したのが、天皇家の女性たちによる信仰活動でした。このテーマは史料が多く残っており、研究しやすかったため中世史を研究分野として選びました。

サブカル作品からの学び方についてどう考えますか

 アニメやマンガなどのサブカルチャー作品をきっかけに歴史に興味を持つことは、とても良い入り口だと思います。最近では歴史の授業が減少傾向にあることもあり、作品から関心が湧くのは大歓迎です。
 しかし、サブカル作品に登場するキャラクターと、歴史上の人物が違うことを前提として理解する必要があります。また歴史サブカル作品には限界があるため、どう研究していくのかまで持っていくのが難しい分野になります。さらに、時代性や家族の形を比較し研究する場合、歴史学からの分析が難しく、社会学からの分析が必要になると考えます。

今後のゼミについて教えてください

 今はまだゼミを持っていないのですが、今後のゼミでは、いきなり古文書を読むのは難しいので、まずは漢文で書かれた活字の史料を読み、「ここに書いてあることはどういうことだろう?」と現代語訳しながら考えるところから始めたいと思っています。文字を読むだけでなく、歴史の舞台となった場所にも実際に足を運びたいので、フィールドワークも取り入れていくつもりです。
 史料を読む力って、根拠を探す力にもつながると思うんです。今はネットにたくさん情報があるけれど、「ソースはどこですか?」って聞くと怪しいものが多い。フェイク横行・ファクト軽視の現代だからこそ、普段の生活でも「根拠はなにか?」っていう視点を持ってほしいなと思っています。
 自分も大学時代は人前で発言することが苦手だったので、ゼミでは意見を言う練習ができるような、安心して発言できる場をつくっていきたいです。

今の学生にメッセージをお願いします。

 大学時代に、ぜひ「好きなこと」を見つけてほしいと思います。大学で出会った好きなもの――それは友達であっても趣味であっても、社会に出たあとで自分を支えてくれる大切な存在になります。支えになるだけでなく、人生の指標にもなってくれるはずです。だからこそ、自分にとって特別なものや心から好きだと思えるものを探してみてください。
 もちろん、大学の中でしっかり勉強することも大切ですが、それと同じくらい、大学の外に出ていろいろな場所に行くことも大切です。どこかへ行くという経験自体よりも、その過程で何を見て、何を感じるかが重要なのだと思います。さまざまな場所で、さまざまな経験をしてほしいです。
 そして、もし見つけた「好きなこと」が卒業研究と結びついたなら、それはとても幸せなことだと思います。卒業研究に活かせるよう「好き」を探すという視点で大学生活を送るのも、きっと意味のあることだと思います。

取材・文/戸田 有咲・藤田 綾菜
写真/戸田 有咲

取材後の感想

取材を通して、歴史を学ぶことの奥深さや、現代にも通じる視点の大切さを実感しました。「漢文を読む力は根拠を探す力につながる」という言葉が特に印象的で、情報があふれる今の社会にも通じると感じました。また、「大学時代に好きなことを見つけてほしい」というメッセージには、自分の学生生活を見つめ直すきっかけをもらいました。これからの学びにも、前向きに取り組んでいきたいです。
<戸田 有咲>

今回の取材を通して、好きなものを好きなまま研究し続けることの難しさを実感しました。私自身、ゲームなどのサブカルチャーをきっかけに戦国時代に興味を持ちました。しかし、深く掘り下げて研究するには多くの努力と覚悟が必要で、「好き」だけでは乗り越えられない壁があることを知りました。これからの卒業研究で自分の興味をどう形にしていけるかを、少しずつ考えていきたいと思います。
<藤田 綾菜>

曽我部 愛 プロフィール

2014年
関西学院大学大学院 文学研究科博士課程
後期課程 日本史学専攻

2011年〜2022年 
摂津市教育委員会 市史編纂嘱託員

2022年〜2025年 
相愛大学 人文学部 人文学科 准教授

2025年〜現在
神戸学院大学 人文学部 准教授