2025年3月号

学芸員として、自分だからこそできることを見出す

学芸員になられたきっかけは何ですか?

 初めから学芸員になりたかったわけではないんです。ただ、美術が好きで何かしら芸術に繋がりをもちたいと、人文学部で芸術文化コースを選択しました。中でも自分を変えるきっかけとなったファッションに興味をもつようになり、論文テーマにしていました。
実は、大学生時代にこの「人文通信」の制作スタッフをしていて、ファッションのことを取り上げ記事にしたこともありましたね。まさか自分のしていた「人文通信」でインタビューされる側になるなんて思ってもみませんでした。
 そして先生とのつながりやご縁があり、大学院に進んだことが学芸員になったきっかけです。せっかく大学院に進んだのだから、学んでみたかったこともやってみよう!と決めました。そこから学部生と一緒に授業を受け学芸員資格をとり、卒業後は学芸員補助の仕事や、美術館の広報の仕事も経験し、学芸員の仕事の深さや広がりといったことに気づけました。

学芸員の仕事について教えてください

 一般に、博物館や美術館などの施設で、作品の収集と保管修復、そして展示、調査研究を行うのが学芸員の仕事です。神戸ファッション美術館での仕事は、展覧会担当者になると作品をどういうふうに並べて皆さんに見ていただくかを考える展示図面の制作が重要な仕事の一つになります。展示の専門業者さんがいらっしゃるので、展示の仕方などの細かなニュアンスを指示して作品を設置してもらいます。作品のキャプションは自分たちでつくることもあるので、そこにも工夫を求められ、講演会やギャラリートークなどのイベント企画も計画していきます。他にも、学校や個人団体に向けて講座を開いて、ファッションや展覧会の作品についてお話することもあります。あとは、学館連携の一つで教育普及に携わることも大事な仕事です。博物館実習で学芸員の仕事を教えたり、連携している大学からインターンシップを受け入れたり、中学生のトライやる・ウィークを担当するといった仕事もしています。
 たくさんの仕事をこなしながら、展覧会が始まる時には、もう次の展覧会の準備が進んでいますので、先の先を考えて動くことが必要だと思います。



学芸員になられるのに苦労したことは?

 一番は、知識を蓄えることです。学部がファッションの分野ではなかったので、専門的な知識がどうしても足りない。そこを補って、自分の足りない部分を埋めていく勉強といったところが一番苦労しました。働きながら勉強をつづけなくてはならないので大変です。特別展はファッション以外の企画もあるので、新しい展覧会のたびに、誰にどう見せるのか、どういう展示の仕方が相応しいのかを考えないといけません。働きながら勉強するのには苦労もありますが、新しい知識にふれることができるのは楽しいです。

学芸員のやりがいは何ですか?

 美術館に来た人の興味・関心を一緒に育て上げていけることが学芸員ならではの役目かなと思っています。学芸員ならではの仕事はたくさんありますが、身近に美術館を利用してもらうことを考えるのも大事な仕事です。
 教育普及を担当する上で、子どもたちにとって「楽しい」「これなんだろう」と感じてもらえるよう、試行錯誤を繰り返し、来てくれた人が自分の興味・関心を誰かに話せるようになることが大切だと思っています。それを学芸員の自分だからこそできる方法で、見せ方や説明の仕方も考えています。どんな仕事でも発展と継続ができるように、自分だからこそ任せてもらえることを見出すことが大事だと思います。

大学時代にやっておいて良かったことは何ですか?

 部活です。アコースティック・ノーツという音楽研究会に所属していました。当時、ビジュアル系が好きで、音感もない、人前で何かするのも得意じゃないと思いつつ、形からはいってみよう!と挑戦しました。そこで仲間とであい、学校に行く楽しみの一つができました。色んな仲間がいるから授業などの情報交換や他の学部での話も聞けて楽しかったです。今でも当時の友達とやり取りをして交流があるのは嬉しく思います。小さなことかもしれませんが、それまでやったこともない、まったく知らないところに踏み込こんだことが私の人生のなかでは大きな出来事でした。

大学生時代にやっておいたらいいことは何ですか?

 もっと勉強しておいたら良かったと思っています!というのも、何がこれからの自分に役に立つかわからないし、何がプラスにはたらくかわからないので勉強は大切だと実感しています。それと正解を聞いておわりじゃなくて、その正解以外にも答えはあるのか考えること、これは後々自分のためになると思います。
 学生時代だからこそ、楽しそうだなおもしろそうだなと感じたことをもっと積極的に深堀りしていくとよかったかもしれません。それができるのが、私自身も授業や「人文通信」を通じて、色々なことにふれたり、興味関心を探せたという意味で人文学部だったなと思います。専門的なことも大事ですが、柔軟に動いて考える面では、人文学部のように幅広く学べる学部は、どんな職種についても役立つかなと今になって感じています。

取材・文/梅原 玉妃・小川 陽妃

取材後の感想

今回の取材を通して、私自身知らなかった職業について知ることができ、亀山さんのアドバイスなどを聞いて考えさせられることがあった。学芸員にしかできない沢山の仕事があったり、教育普及などにも幅広く関わっていることを知ることができた。また、亀山さんが「興味のあることはやってみるといい」「興味があることを追求し勉強につなげるといい」などアドバイスをしてくださり、そこから私自身、今取り組んでいることにより関心を持ち、取り組んでみようと思えるようになった。
<梅原 玉妃>

今回の取材で学芸員のお仕事について教えていただき、驚きがたくさんありました。私たちから見えない裏側で様々な工夫を凝らして学びの場を提供してくれる、素敵な職業を知ることができて良かったです。日々努力を重ねる亀山さんの姿からは、自分が好きなことややりたいと思うことに挑戦することの大切さを学びました。興味を持った物事を後回しにするのではなく、私も新しい一歩を踏み出していきたいです。
<小川 陽妃>