2025年9月号

2つの舞台への挑戦
憧れていたスポーツに関われる職から、自販機補充スタッフへ。家族を養うために憧れの職を辞め、2度の転職をした決意とは。家庭と仕事、2つの舞台で戦う北田さんの姿から、生き様を学ぶ。
挑戦の学生時代
神戸学院大学に入学した北田さん。そこで所属したのは、大学祭で調整や仲介を行う、中央実行委員であった。大学祭に出店する人たちに規約や当日の予定について伝える仕事の経験は、社会人になってから勤めたスポーツジムやスイミングスクールでもわかりやすく説明する際に役立ったと語ってくれた。しかし、学生時代最も力を入れたことは、フルマラソンであった。3年生の時に参加した神戸マラソンでは3時間11分で完走。このフルマラソンへの挑戦は、就活においても他の人がやっていないようなこととしてアピールポイントになった、と語ってくれた。
1度目の転職
神戸学院を卒業後、就職したのは精肉の卸・販売会社であった。学生時代からスポーツを愛していた北田さん。スポーツジムを新規事業として始める、と説明を聞いて入社を決意した。しかし、待っていたのはひたすら肉を切り分ける生活。憧れていたスポーツの仕事には、まったく関わることが出来なかった。繁忙期である正月やゴールデンウィークには、夜中の1時まで翌日の仕込みをすることもあったそうだ。そんな生活を2年ほど送った時、転機が訪れる。働いていた肉屋の経営が、下火になって来たのである。系列店の閉店やスポーツジムの計画の白紙化が、転職について真剣に考えるきっかけになったと語ってくれた。そして、転職先としてまっさきに思いついたのが、自分の好きなスポーツに関する仕事であった。
憧れへの決別
次に就職したのは、スイミングスクールが併設されたスポーツジムであった。学生時代から好きだったスポーツに関わることが出来る仕事。スイミングスクールでの子供たちへの指導をメインに、イベントの計画立案や合宿への引率など、多くの仕事を担っていた北田さん。一番印象に残っている出来事は、スキー合宿だと言う。自由時間が終わり、集合場所に集まった子供たちの数が一人足りない。結局、時間に気づいていなかっただけですぐ見つかったもののその時は血の気が引いた、と当時を思い出して語ってくれた。しかし、そんな仕事にも大きな問題があった。それは、給料の少なさである。その問題に直面したのは、子供が生まれる、となった時のこと。スイミングスクールの給料では、妻とこれから生まれる子供を養っていくのは難しい。憧れの仕事と家族との生活。悩んだ末に出した結論は、家族との生活のための転職であった。
今の職場とやりがい
現在はダイドーアサヒベンディングで活躍されている北田さん。現在の職場との出会いは大学を卒業してから4年後、学生時代のバイト仲間からの誘いがきっかけだった。決め手は重視していた人間関係が良好であるということだった。仕事の内容は、決められたエリアの自販機の商品補充や機械の故障があれば修理業者に連絡を行う事であった。現在の職場は14人ほどの規模で、同じエリアを複数人がローテーションしながら回る。働いていくなか、家族の家を建てるという大きな目標を立てた。新しい会社にはまだ入社して2年目で、まだまだわからないことも多い。実際に給料に直接つながるものではないが、普段の仕事を完璧に覚え、少しでも早く昇進できるよう取り組んでいる、と語ってくれた。その一例として、売り切れ時間で売上のロス率というのをみられるので、そのパーセンテージを少しでも低くできるよう、売り漏れが出ないよう日々訪問先を選定して仕事を行っているそうだ。
北田さんは、工夫して作業を早く終わらせることができた時に仕事のやりがいを感じる、と語ってくれた。日によって回る自販機の数や作業量も大きく変わる中で、工夫を凝らし、早く作業を終わらせて帰ることができた時にやりがいを感じるようだ。早く仕事を終えることにやりがいを感じるのにはプライベートも大きく関係していた。仕事の目標だけでなく、プライベートの目標を北田さんは重視している。家族みんなで楽しく過ごせたらそれで満足だ。そのためにも仕事は交通量の少ない朝早くに出発し、どれだけ効率的に仕事を終えられるかを考える。家族のために残業をして稼ぎたいという思いもある一方、まだ幼い子供や家族との時間もとりたい。そのバランスは難しいと北田さんは語る。
挑戦し続けること
人文学部で今学んでいる学生たちに対して、いろいろなことに挑戦してほしい、と北田さんは語る。なぜなら社会人よりも圧倒的に時間に余裕がある大学時代にいろいろなことにチャレンジし、友人と遊んで大学生活を楽しんだ経験が、就活や社会人になってからもかならず活きてくるからだ、と語ってくれた。学生時代は大学祭の実行委員やフルマラソンに挑み、2度の転職、そして今も家族のために職場と家庭、2つの舞台で活躍する北田さんの挑戦は、これからも続いていく。
取材・文/清水 栄希・鷹谷 歩
取材後の感想
今回の記事を書いてみてなかなかうまくいかないこともありました。ですが、諦めずにいろいろできることを考えたりすることで無事記事を作ることができました。また、今まではインタビュー内容をそのままあまり変えずに書いていましたが、今回は構成を考えながら書くことで、自分で文章を作るということが身につきました。
<清水 栄希>
MY STYLEの記事を書かせていただく中で、インタビュー記録から軸となる要素をなかなか見つけられないことを始めとして、多くの苦労がありました。それらを周囲の人にアドバイスをもらいながら乗り越えた経験は、今後の人生の大きな糧になると思います。このような貴重な経験をさせていただいた「人文通信」に深く感謝します。
<鷹谷 歩>