Vol.47(2024年9月)
松吉 淳

建築社会学という新たなジャンルを立ち上げる

先生の専門医ついて教えてください

人文学部での主な担当科目は、地域社会学と社会調査法です。私自身の専門も地域社会学です。その中で、これは私が勝手に名乗っているのですが、建築社会学という新たなジャンルを社会学の中で立ち上げたいと考えています。
これまで、人文・社会科学分野の中では積極的に建築というものを扱ってきておらず、あったとしても作品論や建築の様式といった美術的なものが主流でした。建築社会学では、建物が「社会の一員」としてどのように扱われているのか、そして私たちが建物とどのように関わっていくのかということがテーマになります

 

建築社会学ではどういったことが学べるのでしょうか?

一言でいうと、皆さんが建築の知識を身につけて、意見を述べたり考えを示したりできるようになるということです。
たとえば、廃校になった高校の校舎があるとして、今は景気が良くないので新しい建物が建てられるということはあまりありません。役割を終えた建物のその後について、これまでは行政や建築のプロだけが考えてきたのですが、これからの時代、市民の皆さんがこの問題を考えていかなければいけないと思っています。
もっと身近な例で言うと、空き家問題というものがあります。現在、全国には900万戸もの空き家があるとされています。今後、たとえば皆さんの実家が空き家になった時にどうするのか。壊すのか、残すのか、再利用するのか。いずれにせよ、知識がなければどうすれば良いかわからないと思います。そういった時に皆さんが主体的に動く手助けをできるような、役に立つ学問にしたいと考えています。

 

建築社会学について研究しようと思ったきっかけは何ですか

父が設計事務所を経営し ており、建築が身近なものだったことが大きいと思い ます。しかし、社会学にも関心があり大学では社会学を 専攻することにしました。 それでも建築への関心が消えることはなく、卒 論のテーマとして取り上げました。
その後、就職難も相まって就職活動が上手くいかず、じゃあ良い機会だということで、京都の美術大学に入学し、そこで建築の勉強をしました。ただ、周囲の人と比べたとき、自分が建築の実務の分野で活躍できるとは思えませんでした。そこで、建築と社会学をあわせた研究をす ることに思いいたりました。それが、 30 代前半く らいの時です。

 

今後の研究目標を教えてください

一つ目は、2年以内に建築社会学の入門書のようなテキストを作りたいと思っています。まずは、こういう学問分野もありえるのだと世の中に示したい気持ちがあります。
二つ目は、役割を終えた建物を人々がどう扱うのかということをしっかり研究したいと考えています。例えば、建物を「ちゃんと」終わらせてあげるという発想から、最近は住宅のお葬式が行われることも増えています。そのように、見慣れた風景の一部として存在していた建物を、社会の一員として記憶に残していくという活動がちらほら出てきているので、それを研究していきたいです。
三つ目は、空き家を利用した「居場所」作りです。現在、大人も子供も「居場所」がありません。ここで言う「居場所」とは家、学校、職場以外の、人と関われる場所という意味があります。そこにいる人が皆さんのことを認知して温かく迎えてくれる、そういった場所が今ではすっかりなくなっています。そこで、全国に溢れている空き家を利用して、カフェやサロン、図書館などその形態にこだわることなく、その地域に根付く「居場所」を作りたいというのが、目標ともいえる研究テーマの一つです。
また、地域社会学という観点でいうと、農村社会のリアルを学ぶために神戸市西区に拠点を設け、農業体験をしてもらっています。これは、神戸学院大学の学生の他にもさまざまな大学の学生に参加してもらっていて、実践を通じてその地域のリアルな現状を体感し、課題を発見し、その課題を解決するためのヒントを得てもらいたいという狙いがあります。毎週土、日に活動しているので、興味がある方はぜひ一度参加してもらいたいです。

名古屋での「まちづくり」、「居場所づくり」の取材

名古屋での「まちづくり」、「居場所づくり」の取材

 

先生にとって「居場所」ってどんなものですか

きっかけは私が大学時代にはあった居場所が、今はないということなんです。私が大学時代には、大学構内の道端に、勝手に机とか椅子とかを持ってきて置いて、サークルの連中が目的もなく集まってだらだらしているような居場所があったんです。そういう居場所がどんどんなくなってきている。そこに行けば私のことを知っていて迎えてくれる人のいる場所、ただ居るということのできる場所が、私の定義する居場所です。

 

学生時代にやっておいた方がいいことを教えてください

まずは読書ですね。学生のうちにたくさんの 本を読んでおけば、5年後、 10 年後、 20 年後に確 実にその読書体験が活きてきます。
他には、色々なバックグラウンドを持った人と 話してみるというのも大事だと思います。身近 なところから異文化に触れてもらって、自分の 興味関心を伸ばしてもらえたらなと思います。 そのためには、旅行はかなり有効な手段だと思 います。ベタですけど、読書と旅行はぜひやってほしいですね。自分の持っている小さな常識をどんどん壊していくような大学生活にしてほしいですね。

 

松村淳先生の著書

建築家という存在に社会学的な焦点をあてた『建築家として生きる』(晃洋書房) と『建築家の解体』(ちくま新書)。コロナ禍で人びとが居場所を失うなか、公共に 代わって私的空間にコモンズ的な要素を埋め込む街場の建築家を取り上げる 『愛されるコモンズをつくる 街場の建築家たちの挑戦』(晃洋書房)

取材後の感想

ふだん意識していないだけで、空き家や廃校になった学校の校舎のように役割を終えた建物の問題は自分の身近にあるものだと気付かされました。 「建築社会学」という新しい学問分野の開拓や学生と行う地域の居場所づくりなど、様々な活動に取り組む松村先生のように、私も主体的に考えて学ぶ姿勢を大切にしたいと思います。
<小川陽妃>

 

私が特に印象に残っているのは「居場所づくり」についてです。 誰もが安心できる居場所づくりを考え、探究しておられる先生の気さくで温かい人柄が、取材の最中にも伝わってくるような時間でした。 松村先生の研究やお考えについて知ることができ、このような貴重な機会に恵まれたことを大変嬉しく思います。
<楠木綾乃>

 

今回の取材を通して、学問的なことはもちろん松村先生について良く知ることができました。具体的にはその行動力に驚かされました。例えば、建築社会学という未開拓の学問を広めようとしていること。今はほとんどなくなってしまった人々の居場所を作るために空き家を利用した活動をしていること。他にも学生と地域が繋がれる場を設けるなど、ご自身の研究に合わせて、地域に根付いた様々な活動をしていることが印象的でした。非常に有意義な取材でした。
<島本航太>

 

松村 淳 プロフィール

1998年
関西学院大学 社会学部社会学科

 

2004年
京都造形芸術大学 通信教育部 デザイン科 建築デザインコース

 

2014年
関西学院大学大学院 社会学研究科 博士後期課程

 

2020〜2021年
関西学院大学 社会学部 助教

 

2022〜2023年
関西学院大学 社会学部 准教授

 

2024年〜現在
神戸学院大学 人文学部 講師