2025年1月22日(水)、人文学部では集中講義「卒業研究」の一環として「2024年度卒業研究発表会」を実施しました
人文学部では卒業研究(卒業論文)の作成を4年間の学びの集大成として位置づけています。人文学部生の多くは1~3年次の期間に様々な講義を履修することで、自らの興味や関心を深めるとともに、3年次前期以降、ゼミに所属し、演習授業を通してそれぞれの専門に応じた研究・調査の手法を身につけてゆきます。4年次からは教員の個別的な指導を受けながら研究を進め、ゼミ生同士で切磋琢磨するなどして、卒業論文の執筆に取り組みます。多くの学生にとって「研究」や「論文の執筆」は初めての体験だけに、さまざまな苦労と予測外のトラブルがつきものですが、例年12月中旬の提出締め切りには250篇を超す卒業論文が提出され、われわれ教員としても人文学部における学修の成果を目に見えるかたちで確認できるよい機会となっています。
人文学部ではこうして作成された卒業研究を、単に個人的な成果として終わらせないために、提出後、ゼミごとに代表作1篇を選び、その内容を共有するために例年、卒業研究発表会を実施しています。卒業研究発表会は人間探究科目群、言語・文学科目群、環境・人類・地域・歴史科目群(人と社会と自然科目群)の3会場に分かれ、それぞれの科目群に所属する3・4年次生が参加して、代表者のプレゼンテーションを聴き、最後に投票を行って、優秀卒業研究を決定します。人文学部創設期から途切れることなく続けられている重要な行事です。
2024年度は、各ゼミから選ばれた18人の4年生が以下のような題目で発表を行いました(発表順)。
■人間探究科目群
渡邉 葉月「映画美術の歴史と未来」
毛利 知哉「中国の教育格差とその問題点について」
森澤 慧子「ミュシャ作《スラヴ叙事詩》―画業初期のデザイン性の継承と発展という観点から―」
川崎莉華子「「死ぬ権利」の再考―『自殺論』の現代的再解釈と新たなアプローチの模索―」(※やむをえない事情により発表取り下げ)
山田 里咲「機能不全家族における他者論―家族という他者と関わることについて―」
山口 美祐「トロンボーン音楽の研究と演奏実践―S・フェルヘルストの作品を中心に―」
■言語・文学科目群
宮田 桃子「TRPGと日本の創作文化」
加藤 早姫「泉鏡花の戯曲に表現される幻想世界」
酒井 菜名「動詞setの多義性」
山口 夏鈴「小川未明作品における人間像」
大田 萌恵「「推し活」を語る言葉―戦争と宗教のメタファーを中心に―」
■環境・人類・地域・歴史科目群
古川 眞有「肉食文化の開花―明治日本は西洋料理をどのように受け入れたのか―」
手倉森奏帆「民俗学の町づくり―岩手県遠野市と神崎郡福崎町の事例から―」
杉山 湧哉「武家の香木・香炉に関する史的研究」
太田 裕己「現代における里山再生から考える地域振興―獅子ヶ池の取り組みを事例に―」
茶谷 涼 「生物多様性保全のための地域の取り組み―環境学習都市・西宮の取り組み事例から―」
深江紗也子「「毒親」と母娘問題」
脇田 優宇「和歌山県田辺市と徳島県海陽町の石碑から見た津波災害」
午前10時からはじまった発表会では、ゼミ代表の学生たちがスライドやレジュメを用いて分かりやすく卒業論文の内容を紹介した後、活潑な質疑応答が行われました。なかにはこれから卒業論文に取り組むことになる3年次生からの鋭い指摘や、口頭試問の際に副査を担当した教員からの専門的な質問もあり、5分の予定時間を超えて熱心な応酬が交わされた会場もあったようです。
全発表終了後、教員及び学生によって投票が行われ、下記の論文が優秀卒業論文に選出されました。なお、優秀卒業論文は神戸学院大学人文学会の学会誌『人間文化』に掲載される予定です。
■人間探究科目群
山田 里咲「機能不全家族における他者論―家族という他者と関わることについて―」
森澤 慧子「ミュシャ作《スラヴ叙事詩》―画業初期のデザイン性の継承と発展という観点から―」
■言語・文学科目群
大田 萌恵「「推し活」を語る言葉―戦争と宗教のメタファーを中心に―」
酒井 菜名「動詞setの多義性」
■環境・人類・地域・歴史科目群
太田 裕己「現代における里山再生から考える地域振興―獅子ヶ池の取り組みを事例に―」
脇田 優宇「和歌山県田辺市と徳島県海陽町の石碑から見た津波災害」
卒業研究発表会で発表の機会を得たのは、1ゼミあたりわずか1篇に過ぎませんが、それはゼミ代表に選出されなかった卒業研究が価値のないものであったということではありません。自分なりの問題意識を設定し、それぞれの専門分野に応じた適切かつ学術的な手法でテーマにアプローチし、読みやすい文章でまとめた論文は、このほかにもたくさんありました。何より自分自身の力で考え、調査し、書いたということが、4年次生のみなさんにとっては大きな収穫だったと思います。人文学の研究とは、人間を取りまく百般の現象に対して主体的に思考し、理解するためのものです。その意味では、卒業論文を書いた4年次生のみなさんはすでに立派な人文学の徒であると言えるでしょう。社会に出てからも、この経験をじゅうぶんに生かしてください。
卒業研究発表会は、各種の準備、運営、司会進行など、そのほとんどが3年次生以下の学生によって行われています。運営にあたったのは「インターンシップ(キャリア実習)」を受講しているみなさんで、学部内では「イベントスタッフ」と呼ばれています。こうした大規模な行事を、学生が主体となって運営することには多くの困難が伴いますが、イベントスタッフのみなさんが献身的に努力してくれたお陰で、今年度も発表会は成功裏に幕を閉じました。人文学部の主体性あふれる学生たちを誇りに思います。