2017年10月号

ご主人と2人でウェブサイトを制作、 フレキシブルな働き方を応援したい

夫婦二人で起業し、自分スタイルで フレキシブルに仕事をこなす先輩の森下さん。 誰しも憧れる働き方の一つだと思うが、独立時の不安はなかったのか?仕事の難しさはどんなところなのか?など多くの興味を抱きながら、待ち合わせの宝塚へと取材に向かった。
(取材/中村理乃・前田麻子 文/中村理乃)

Profile

1978年尼崎生まれ。大学卒業後、ニューヨークに半年遊学して帰国後、音響関係の専門学校に入学。その後、Appleマッキントッシュサポートセンター、大手イベント会社を経て、2006年からシステム開発会社でウェブシステム及びウェブサイトのディレクション制作を担当。2012年独立し、「ウェブキャンパー」(https://webcamper.jp/)を設立(後に、株式会社宝塚デザイン設立)。
ウェブ制作・デザイン・運営に従事している。

デザイン力だけでなく、コミュニケーション能力も

「仕事場が自宅兼用なので、仕事場で取材を受けるのはちょっと難しい」ということで、指定された宝塚駅近くの喫茶店へ。JR宝塚南口下車、武庫川に架かる宝塚大橋を渡り、宝塚大劇場のそばにあるお洒落で広々とした「グリーンベリーズコーヒー宝塚劇場前店」でお会いした森下さんにさっそく仕事内容を伺った。
(その後、自宅とは別に2018年に地元宝塚に事務所兼コワーキングスペース「BASE宝塚」を運営されている)

手がけているウェブサイトは、自宅兼職場の宝塚市を中心に日本全国の中小企業のホームページ、ネットショップ、大学、商品を紹介するECサイトなど数多い。事前に森下さんが運営するHP「ウェブキャンパー」を拝見すると、制作実績がずらりと並んでいて、これまで300余りのウェブサイト・システムに携わってきたことがわかる。
 
仕事は紹介によるものが多いが、「ウェブキャンパーのホームページを見て」という方もいる。進める時は、最初の打ち合わせが肝心だ。
「基本的にはお客様のご要望をヒアリングして作りますが、お客様の要望だけをそのままデザインに起こすと、説得力のないものになるケースがあります。また、ホームページのデザインを作成する前段階で、どういったものを作りたいか、どうアピールしたいかをお客様の方でも考えていただかないと、後でイメージが違うということにもなります」
だから、クライアントの要望を聞きつつ、プロの視点からより良いイメージを提案し、納得してもらってから作り上げるのがポイント。でもどれだけしっかり土台を決めていていても、実際のデザインを見てからしか判断できない方もいるので、そのあたりの調整も重要。デザイン力だけでなくコミュニケーション力も必要となる。

 

独立時の不安はなし。二人の強みを仕事に生かす

夫婦二人で起業して、マイペースで仕事をこなすという働き方も興味深い。
独立したきっかけは、子どもとの時間が欲しかったこと。結婚して、子どもを授かり、育休後、仕事復帰をしたが、通勤も大変だし、何より子どもと触れ合う時間が少ないと思った。独立することで自分のペースで仕事を進められると考えて独立を決意した。
女性が独立して仕事をする。誰しも憧れるが、実行できる人はそう多くはない。不安はなかったのだろうか?
 
「独立した当初は主人がまだサラリーマンだったため、収入が少なくなっても主人が倒れない限りは大丈夫だろうと考え、不安はありませんでした」
その2年後、次男の出産を機に、システムエンジニアの仕事をしていたご主人もサラリーマンを辞めて独立、在宅で夫婦一緒に仕事をするようになった。かねてから30代で独立して何か仕事をしたいと夫婦で考えていたため、40歳を前に独立する良いきっかけになった。
夫婦で仕事をやる強みは、それまで一人でやっていた仕事を分担できること。
 
「夫はシステムと営業。私はデザイン。それぞれ得意なところだけを分担することで、とても効率よく仕事ができるようになりました」と笑う。

リビングの一角が仕事場所

 

スクールやセミナーを開き、フリーランス志向の人を応援したい

今後の二人の夢は、フリーランスで仕事をしたい人を支援するスクールやセミナーを開くこと。まったくの未経験者には、ウェブデザインの基礎から教えることになる。
 
「フリーランスを希望する女性が、私の周りにも多くいます。でも独立してすぐには仕事をとることが難しく、なかなか軌道に乗りません」
 
だから森下さんのスクールで学んでいる人に、自分たちが受けている仕事を振り分けることができれば、生徒さんたちも勉強をしながら収入を得ることができるだろう。もちろん、スクール卒業後は、パートナーとして一緒に取り組んだり、仕事を融通しあうことも可能だ。
 
「起業するというと大げさですが、独立したり、フリーランスの働き方は、子育て世代や介護をする方にとっても、とてもフレキシブルな働き方だと思います」
スクールが誕生すれば、きっと大きな反響を呼ぶに違いない。私も学ぼうかしら。

 

学生時代、バックパッカーとして女一人でアジアを旅する

先輩である森下さんに大学時代を振り返ってもらった。
 
1、2年次の時は、劇団イクスクラメーションに所属し、演劇の音響担当をしていた。「休みのない劇団で、尼崎から毎日通い、多忙な学生生活を送っていましたね」
 
その頃、ちょうどバックパッカーが流行り始めた時期だった。中国での語学研修を2週間経験し、3年次のときは、劇団をやめて夏休みなどを利用し、旅先から授業出席数は足りるかと心配しながら3ヵ月間アジアを一人で放浪した。訪れた国は、中国、ネパール、チベット、インド、カンボジア、スリランカなど。どの国も深く印象に残っている。
 
卒業論文では、自分の好きなことを題材にしてもよいゼミに入っていたので、夏に1ヵ月間バリ島へ。論文のタイトルは「バリ島の伝統芸能〜観光地化の観点から〜」。バリ島での経験を自分なりにまとめて表現するという経験が、今の仕事に生かされているかもしれないと、振り返る。
 
それにしても、恐ろしいほどの行動力と勇気を備えた人だ。3ヵ月間のアジア旅行がきっかけで、大学卒業後も、すぐに就職しないでもう少し世の中をみて、やりたいことをやってみようと決めた。そして卒業後、ニューヨークに半年遊学し、帰国後に専門学校に入り直し、そこでMacでデザインをする楽しさを発見したという。

 

学生時代に、やりたいことは何でもやっておこう

最後に森下さんからウェブデザイナーを目指す人へのアドバイスをいただいた。
「ウェブデザイナーになるためには、まず自分のホームページを作ってみることが一番早いですね。あとは、知人の音楽活動や何か活動をしている人のホームページなど、まず作ってみることが大切だと思います」
 
そして後輩へのアドバイスは、「やりたい!と思ったことは何でもやること」。
アルバイトで忙しい場合、面白いと思う仕事や将来に生かしたいと思う仕事は別にして、お金だけのバイトなら(お金は必要ですが)、時間がもったいない。社会人になったらいくらでも働けるので、時間が圧倒的にある学生時代に、やりたいことは何でもやってみる。「それがこれからの人生の経験の支えになりますよ」と後輩にエールをおくる。

 

ウェブサイトとホームページの違いは?

「サイト(site)」には「場所、用地、敷地」といった意味があります。インターネット上で、特定の場所を指定できるアドレスをもったウェブページの集合体が「ウェブサイト」です。単に「サイト」と呼ぶこともあります。
 
一方、「ホームページ(homepage)」とは、「最初にスタートするページ」のことで、最初にウェブブラウザーを起動したときに、最初に開くページのことです。
ところが日本ではインターネットが普及する過程で、トップページだけでなく、中身(下層にあるウェブページ)も含めて、ウェブサイト全体を「ホームページ」と表現することが広まり、いまに至っています。厳密には違うとしても、現実として日本では「ホームページ」と「ウェブサイト」がほぼ同じ意味で使われています。