2024年3月号

甲子園学院中学校・高等学校 国語科教員 奥野 星玲奈 さん

十人が読めば、十人の答えがある、それが国語の面白さです。

教師になりたいと思ったきっかけはなんですか?

中学校時代の国語の先生がとても素敵な先生だったんです。普段は物腰も柔らかで優しいですが、厳しくするところは厳しくする、メリハリのある先生でした。私自身も教師になって感じていることですが、休み時間になると次の時間の準備とかで、結構バタバタするんです。バタバタするにもかかわらず、その先生は私が「古典の本文を暗記したので聞いてください」って言ったら、嫌な顔を一つもせずに聞いてくれた。授業中は「奥野さん」って名字で呼ぶけど、休み時間では名前で呼んでくれたり、使い分けがうまくて、生徒とのコミュニケーションがとても上手な先生でした。また、私自身が昔から国語が好きだったので、私も教員側に立って、ちょっとでも教師をやれたら良いなって思い始めたのが中学校のときです。

本格的に教師になりたいと思い始めたのは高校生のときです。国語の授業は、一つの小説に対して十人が読めば十人とも違う答えを持っているじゃないですか。
数学みたいに数式をといて一つの答えを導くのではなく、例えば、ここではこの主人公はどういう心情を持っているのか質問されたら、多分十人とも違うことを答える。他の人の意見を聞いたときに、私と違う意見の人がこんなにいるんだってことが、とても面白いと感じました。そして、自分が教員になって質問を投げかけたら、生徒たちはどんな答えを言ってくれるのかなということにとても興味を持って、そこで気持ちが固まりました。神戸学院大学に入っても、その気持ちは変わらず、実際にどんな答えが出てくるのかなっていうことを、今も楽しみにしながら教師をやっています。

教職のイメージと実際にやってみてギャップはありましたか?

イメージとして学校の先生は、授業をしたり生徒の対応をしたりというのが主な仕事だと思っていました。
忙しいだろうというのは分かっていたんですけど、実際に教師になってみると、授業や生徒の対応以外の仕事がかなり多い。文章の作成だったり、外から来る研修の仕事だったり、部活を割り当てられたりして、ほとんど毎日違う仕事がポンポン降ってくるので、これに関しては慣れるっていうことがないです。授業に慣れることはあっても、仕事自体に慣れるっていうことはなかなかないですね。感覚的にイメージの百倍は忙しいです。

教師を通じ、良いな、辛いなと思う瞬間は何ですか?

良いところ辛いところは、表裏一体になってしまうのですが、生徒の対応・コミュニケーションです。この学校は決して偏差値の高い学校ではない。
小・中で勉強にぶつかって、なかなか伸びないので公立に行けないとか、中学のときはほとんど学校に行けなかったとか、友だちと上手くいかず別室で登校している生徒、そういう生徒たちもいます。辛いところはそういう生徒たちの気持ちが上に向かず、学校生活がスムーズに送れないところを見てしまうときですね。
良いなと思うところは、外で生徒に会ったときに「あ、奥野先生」って私のクラスの生徒が寄ってきてくれるときですね。休み時間でも寄ってきてくれて、たわいのない雑談とかをしてくれる生徒もいるので、この生徒とちゃんとコミュニケーションが取れているなとか、ちゃんと私の事を好いてくれているなとか、そう思えたときに良かったなと思います。以前担任していた卒業生の生徒たちが、街ですれ違いざまにめちゃくちゃ声をかけてきたり、顧問の先生や担任の先生に言いづらいような相談事をされたりするので、以前持っていたこの子たちともちゃんとコミュニケーションが取れていたんだなって感じるときはうれしく思い、それが自信に繋がっていきますね。

大学で学んだことを活かせていると思う場面はありますか?

野田春美先生の講義で、J-POPの歌詞の一節を用いて、そこに出てくる助詞・接続詞や、体言止めなどの表現技法を絡めた講義があったのですが、そのやり方をお借りしてJ-POPの歌詞を分析する演習をやっています。曲は私が選ぶのではなく、生徒たちにリクエストを取って決めています。そして決めた曲を自分たちで分析してねって投げているので、曲を聴きながら、歌いながら彼女たちはやっていますね。私が持っている学年は中学3年生と高校1、2年生なんですけれど、中3と高1に関しては中高一貫の学校なので、のびのびと授業をすることができるんです。高校2年生になって受験に古典を使うという生徒には、のびのび授業というより文法的なところをしっかり教えることになりますが、その演習では、例えばbacknumberや米津玄師の歌詞の、この部分はどんな心情なんだろうといった分析をしてもらっています。大学時代までは歌詞を分析するっていうこと自体がなかったので、とても面白い授業だなと感じて、それを今実際に授業で行い、活かせているなと思います。

学部生へのメッセージをお願いします。

学部全体に向けたメッセージとしては、やはり今しか十分に勉強できる時間はないと思うんですね。社会人になってから、やりたいことや取りたい資格ができたとしても、働きながら帰宅後に勉強を頑張るのにどれだけの気力がいるかって考えたら、今できることは後回しじゃなくて、学生のうちにやった方が絶対に良いっていうのは伝えたいと思います。
また、教職課程を取っていて、教師になるかならないかで悩んでいる人は、子供が好きならば絶対に迷わずにやった方が良いです。子供が好きでも、漠然と教師の仕事に不安を感じているぐらいならば、絶対に進んだ方が良いと思います。教師の仕事は慣れてきます。最初に何時間も何日も授業を作る準備にかかったとしても、何か月か1年ぐらい経ったら、1、2時間あれば次の日1回分は作れるように絶対になってくる。全然違う仕事に就いてから、やっぱり子供と触れたいなって思っても、時期が遅いとどうしても不利になってくるので、悩んでいるなら進んで良いと思いますね。ただ、とりあえずどこかの非常勤講師をやるとか、講師をやるぐらいの気持ちだと多分教職はきついと思います。とりあえず、仕事もないし、教師でもやるかぐらいだと、続けてられないと思います。

取材を終えての感想

取材する前は、どうして教師という大変な仕事をやれているのかという疑問がありました。取材を行った後、奥野さんが学生時代に人との関わりの中で自分の思いが芽生えて、先生になりたいという強い決意を抱いていく様子などを聞き、その思いがあるから今やっていることを続けられる、という姿がとてもかっこいいなと思いました。

由里翔吾