2024年度第4回大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ『図書館で「なりたい自分」を見つけよう』が開催されました

2024年8月24日(土)、あかし市民図書館において第4回「大蔵谷ヒューマンサイエンスカフェ2024」として『図書館で「なりたい自分」を見つけよう』が開催されました。
今回は「10代の図書館利用者に本と親しむ機会を提供できないか」という図書館側の依頼を受け、本センター教員が中心となって企画を練り、あかし市民図書館で開発された「たこ文庫」カードを利用したワークショップを実施したものです。

「たこ文庫」は15枚のカードを引いて、出た「お題」に沿った本を紹介してゆくという、ゲーム性を持った自己紹介ツールです。
神戸学院大学人文学部では、少人数のゼミ活動やグループワーク、アクティブラーニングを取りいれた授業を積極的に導入しており、「たこ文庫」のようなツールを利用して自己開示や自己発見の場を作ってゆくノウハウが教員、学生のあいだに蓄積されています。「たこ文庫」カードと人文学部のちからを組みあわせることで、みんなで楽しく本について語り合う機会を提供できるのではないかと考えました。
※「たこ文庫」の詳細は、以下のリンクをご参照ください。
https://takobunko.com/

 

当日、本学からは大西慎也教授(教育学)、鹿島基彦准教授(海洋学)、金益見准教授(社会学)、中村健史准教授(国文学)、鈴木遥講師(地域研究)、前田宏太郎講師(言語学)と7名の学生が参加しました。
会場設営など、教員、学生、図書館の方々が協力して開始前の準備を行い、満を持して午後1時20分ごろ、イベントがスタートしました。
はじめにあかし市民図書館の嶋田楓さんから「たこ文庫」についての簡単な説明をしていただきました。図書館実習生の竹内さんとともに、実際にカードを使った遊び方のデモンストレーションをしていただけたので、参加されたみなさんもイメージが湧きやすかったと思います。

つづいて教員の自己紹介もかねて、1人ずつ「将来を決めた一冊」(たこ文庫カード15)を紹介しました。「就職のきっかけになった本」もあれば、「研究への興味を導いた本」や「論文の書き方を学んだ本」、さらには「自分で書いた本」もあって、大変バラエティ豊かなラインナップになりました。参加者のみなさんも好反応で、人文学部のおもしろさを理解していただけたのではないかと思います。
教員の紹介した本については、記事の末尾に一覧を載せています。

このあと、いよいよ全員参加での「たこ文庫」がはじまります。
教員、学生、参加者のみなさんがなるべく偏らないよう、3つのグループに分かれ、順番に1枚ずつカードを引いて本の紹介に入りました。できるだけ話しやすくするため、本来は15枚1組のカードから話しやすそうな「お題」8種類をセレクトしてあります。
こうした少人数でのワークショップの場合、教員の役割は非常に重要です。話してくれた人はもとより、聞いていた人たちも、「話に参加できて楽しかった、みのりがあった」という実感を持ってもらうために、場を和ませたり、話を引きだしたり、話してくれた参加者を肯定的にねぎらうなどの配慮が欠かせません。しかし、こうした配慮を教員だけが担うと、雰囲気がどうしても「授業」的になってしまい、参加者も堅くなりがちです。
そこで、今回参加してくれた人文学部の学生たちには、こうしたファシリテーターの役割を担当してほしいと事前に説明し、あらかじめ「たこ文庫」カードを使ったリハーサルも実施しました。もともと学生たちは学部の授業で、こうしたグループ活動になれていることもあって、当日は期待した以上の役割を果たしてくれたと思います。

たとえば「途中で読むのを諦めた一冊」(たこ文庫カード05)を引いて、読書の時間、先生から勧められた外国の風景についての本について話してくれた参加者の方がいました。
途中で話が続かなくなって困っていると、すかさず学生の一人が「先生はどうしてその本を勧めてくれたんだろう?」とサポート。「風景画がたくさん入っているので、わたしが絵が好きなことを知っていた先生が、これなら読みやすいのではないかと考えて勧めてくれたのだと思う」という話を聞かせてもらえました。

ワークショップは和気藹々とした雰囲気で進み、時間が足りなくなるほどの盛りあがりを見せました。おおむねどのグループでも1人2回程度はカードを引けたようです。
なかにはワークショップのなかで話題に出た本を、図書館の方が急いで探してきてくださるという特別サービスも! 実物を前にして話がいっそう盛りあがったグループもあったようです。
グループワーク終了後、図書館の方のご協力で「たこ文庫」用の記入用紙をいただき、1人1枚ずつ、今日紹介した本とその内容について文章でまとめてみることにしました。

書いてもらった文章は参加者全員で共有し、しばらくの間、図書館でも掲示してもらえることになりました。ぜひご覧になっていただければ幸いです


イベントのしめくくりとして、司会の中村准教授から「今回は『図書館で「なりたい自分」を見つけよう』というタイトルを掲げてイベントを行いましたが、「なりたい自分」といっても進路や進学のことをすぐ考えてほしいということではありません。自分がどういう人になりたいのか、どういう仕事に就きたいのか、といったことを考えるためには、そもそも自分は何に興味を持っているのかを知る必要があります。つまり、自分がどんな人であるか知っていないといけない。そのためには、自分が読んだ本をもう一度、客観視してみるのがいちばんです。みなさんは今日、見ず知らずの人たちと自己紹介もそこそこに本の話をしました。2時間たって、お互いにずいぶん親しくなった気がするでしょう? 本を通して他の人を「知った」のです。同じように、本を通して自分自身を知ることも可能なはず。「たこ文庫」をうまく利用して、自分を見つけてみてください」というまとめの言葉があり、2時間にわたるイベントは終了しました。
チューターとして参加した大学生は「普段話すことのない中高生と本をテーマに様々なお話が出来たのが楽しかった。たこ文庫というカードゲームがちゃんと作り込まれていて、老若男女問わず読書を促すよい取り組みだなと思った」と話してくれました。

最後に、図書館の方からおみやげの「たこ文庫」ステッカーを頂きました。ありがとうございます。

(記事内の写真は本学矢嶋巌教授及びあかし市民図書館が撮影したものです。)

【教員の「将来を決めた一冊」】
大西慎也教授(教育学) 灰谷健次郎『太陽の子』(角川文庫)。教員を志すきっかけになった一冊。
鹿島基彦准教授(海洋学) ジューヌ・ヴェルヌ『地底旅行』(岩波少年文庫ほか)。子どものとき、読書を楽しむきっかけになった一冊。
前田宏太郎講師(言語学) 鈴木孝夫『ことばと文化』(岩波新書)。言語の世界に興味を持つきっかけになった一冊。
鈴木遥講師(地域研究) レイチェル・カーソン『沈黙の春』(新潮文庫ほか)。文章と研究が持つ力に気づくきっかけとなった一冊。
金益見准教授(社会学) 金益見『ラブホテル進化論』(文春新書)。研究の道に進むきっかけとなった一冊。
中村健史准教授(国文学) 『フレッド・アステア自伝』(青土社)。論文を書くにはねばりづよさが必要だと気づかされた一冊。

 

地域研究センターホームページの記事はこちら↓
https://card-kobegakuin.jp/okuradani-hscafe-2024-4th-report/