実務家による講演会「兵庫運河とともに生きる」を実施しました

講演をする糸谷謙一氏
人文学部の「人文の知」科目の「人文の知専門講義III」(担当教員:鈴木遥講師)において、6月9日に、兵庫漁業共同組合理事の糸谷謙一氏を講師に招き、神戸の漁業や環境保全に関する講演会を開催しました。約60名の受講生にとって、実務家から直接話を伺う貴重な機会となりました。
本講演会は、2024年度に開始した兵庫漁業協同組合と神戸学院大学の社会連携活動がきっかけとなって実現しました。この活動では、本学の学生が兵庫漁業共同組合の皆さんが長年継続されている小学校での環境教育をサポートさせていただいています。

海を守ることも漁師の役目
■海を守ることも漁師の役目
漁師の家系に生まれ、神戸でしらす漁を行っている糸谷氏。講演会当日も夜明け前から漁を行い、その足で有瀬キャンパスに駆けつけてくださいました。講演では糸谷氏は、はじめに、神戸の近海では急速に生物多様性が失われ、魚が減少している点を挙げ、これらの背景には海水温の上昇や上下水道処理の高性能化、護岸工事による干潟の減少などの問題があると指摘しました。
この状況について糸谷氏は「社会の汚れは最終的にすべて海に流れ着く。海は社会を映す鏡のようなものだ」と述べました。さらに、「漁師は海に生き、海を守る存在でもある。私は、この海の状況を何とか改善しなければならないと考えている」と述べ、海を守ることも漁師の役目であるという認識を示しました。

講演を聴く受講生たち
■次世代に海を伝える環境教育
糸谷氏は、海を守る活動の中でも、子どもたちに向けた環境教育に力を入れています。講演の中では、兵庫運河において小学校と連携して行ってきている干潟の生物調査や水産業見学などの活動が紹介されました。環境教育活動を続ける意味について、糸谷氏は「海に関心を持つ人が増え、自分事として海の問題を考える人が増え、みんなで海を守る仕組みをつくっていくことが大事だから」と述べました。
■質疑応答:行政の協力、環境教育のきっかけ
講演後、受講生から寄せられた様々な質問に対して時間の限りお答えいただきました。「行政は環境保全の活動にどのように協力しているのか」という質問に対しては、糸谷氏は「行政とも連携して活動しているが、行政は前例がない取り組みに対して非常に慎重。またいくつかの部署が海を管轄しているために、活動がうまく進まないこともある。もっと全体を取り扱う柔軟な組織が必要じゃないかと思うこともある」という認識を示しました。
「環境教育をはじめたきっかけ」という質問に対しては、糸谷氏は「実は子どもが生まれたことも大きかった。子どもにかっこいい漁師としての姿を見せたい、そのためにも海の問題にきちんと向き合わないとなと思った」と本心を話してくれました。
本講義では、人が自然とのかかわりを重視した暮らしや自然保全について理解を深めることを目指しています。糸谷氏の講演を踏まえ、来週以降の講義では、現代日本の都市部における人と自然との関係、その中での自然保全とはどのようなものかを学んでいきます。