人文学部の中村健史准教授が新著『猫うた 千年の物語』(淡交社、2024年)を出版しました

中村准教授の専門は国文学で、特に鎌倉・南北朝時代の和歌が主な研究対象です。本学の人文学部では、2016年から国文学や比較文学に関する話題を取り上げる授業を行い、国語科の教職課程でも関係科目を担当しておられます。

 

新著の本文冒頭には、「和歌でも、俳句でも、漢詩でもかまいません。この本では、にゃんこの登場する詩歌をひっくるめて「猫うた」と呼ぶことにしましょう。平安時代から明治まで、千年にわたる歴史をゆっくりとお楽しみください」とあります。歌や詩に猫が登場した平安時代からの千年間の日本人と猫の関係をたどる、猫好きに贈られた「猫好きが萌える」「新感覚・猫古典」(新著帯)です。
ポップな猫のイラストとともに時代を先取りした軽妙な筆使いも、文学や言語を操りながら若い世代を相手にする大学教員ならではの技かもしれません。

 

話は平安貴族にはじまり、今年のNHK大河ドラマに合わせたような『源氏物語』『枕草子』『更級日記』などの「猫うた」は、文学にうとい者でもテレビ画面の女優さんたちと二重写しになってしまいます。
中村准教授は、日本の文学をきめ細かく合理的に読んでも「身につく力」はないといいます。「文学は実用的な目的のために存在しているのではな」く(本学ゼミ紹介冊子)、「文学は役に立たない」「無用のいとなみ」とまで主張します(中村2021『雪に聴く-中世文学とその表現-』和泉書院)。しかし、これは筆者独特の逆説的な言い方に過ぎず、最後には「文学には何の存在意義もありません。だから、わたしたちには文学が必要なのです」(中村2021)と吐露します。

中村准教授が最も好きな「猫うた」は、江戸後期の漢詩人、大窪詩仏の「猫に贈る」という作品だそうです。「世間さまのお役に立つようなことは何ひとつできない」と、自嘲気味に詩人である自分のことを猫に語らせているところなどからも(本書エピローグ)、役に立たないと卑下する文学を何よりも愛する著者の思いがわかった気がします。
巻末の「補足」は単なる註ではなく、先学による優れた手引きになっていることを付記しておきます。

 

【目次】
その一 平安貴族は猫とおしゃべりした
古典のなかの猫さまざま
その二 猫のおかげで始まる恋もある
いたずら猫と『源氏物語』
その三 平安時代、 猫は鼻の穴だった
和歌のルールと少女漫画
その四 猫まっしぐら『源氏物語』の恋
鎌倉・室町時代の猫うた
その五 猫にも恋の季節がやってきた
江戸前期の俳諧と「猫の恋」
その六 猫がいるだけで愛しくて
江戸後期の俳諧と和歌
その七 舶来猫は魔性の香り
明治以降の猫うた
エピローグ
あとがき(と補足)
四六判・並製・224頁 定価 1,600円+税 ISBN 978-4-473-04650-5