人文学会の出版助成などにより教員の単著出版が続いています

人文学部の教員と学生を会員とする神戸学院大学人文学会は、会員の研究活動促進を目的とした出版助成制度を設けています。
毎年、大学院の人間文化学研究科で学位を取得した博士論文や、人文学部教員の研究成果が、この助成制度によって出版されてきました。
2020年度は、本助成金により、中村健史准教授の『雪を聴く 中世文学とその表現』が上梓されました。
 

このほか、森栗茂一教授の『地蔵・長屋の歴史民俗学』、用田政晴教授の『琵琶湖と古墳 東アジアと日本列島からみる』といった人文学部教員の単著出版が続いています。各書の詳細につきましては、以下をご覧ください。
 

■ 森栗茂一教授の著書

書名『地蔵・長屋の歴史民俗学』
著者 森栗茂一教授
発行所  神戸学院大学出版会
発行年月日 2021年3月(185ページ)

紹介文

阪神大震災で大火災に見舞われた長田区をはじめとした被災地神戸では、人命・家屋の被害のみならず、市街地の近隣や故郷の記憶崩壊によって、市民は大きな傷を受けていた。こうしたなか、地域で守ってきた路地の地蔵こそが、人々のこの街に生きる希望になっていた。地蔵が近代都市神戸の生活文化遺産であることに、著者は被災後、気づいたのである。
本書は、近代都市神戸における密集市街地、長屋住宅の展開と、その近代住居史的変遷を聞書きと記憶によって描いている。また、震災後の生活復興のあり方、子どもを中心としたコミュニティの形成、さらには、長屋的生活感覚を活かした現代住居のあり方など、未来に向けた住居生活のあり方を描いている。
著者は、神戸市長田区生まれで、震災後、神戸まちづくり研究所を共同で創設し復興市民まちづくり関わってきた。復興市民まちづくりのなかでは、都市計画や経済学の専門でない研究者、故郷、生活を問う民俗学の意味・価値が問われつづけた。著者はその煩悶のなかで、都市計画史、近代住宅史、生活誌、民間信仰研究、復興誌にまたがる地蔵・長屋に関わる複合的な内省的論究を本書で著している。
本書は、四半世紀、陽の目をみなかった震災資料をもとにしている。神戸の忘れがたき町の記憶研究が、神戸学院大学の出版助成によって、神戸学院大学出版会から出版されたものであり、本書は神戸学院大学の地域貢献の一つとなりえるものである。
 
 

■ 中村健史准教授の著書

書名 『雪を聴く ――中世文学とその表現――』
著者 中村健史准教授
発行所 和泉書院
発行年月日 2021年3月(284ページ)

紹介文

中世文学の諸分野にわたって、作品の「読み」を問いつづけてきた筆者初の論文集。漢籍との関わりから和歌解釈の再検討をうながす「伏見院出典歌考」「三条西実隆『再昌草』と漢籍」、長らく未詳とされてきた能の典拠を明らかにし主題上の位置づけを試みた「世阿弥本『弱法師』と阿那律説話」、五山文学における焼き芋の描写を通覧する「煨芋詩叢」、食をめぐる和漢比較文学的考察「一条兼良『藤河の記』の漢籍利用」、漢詩にあらわれた雅遊の精神を論じる「柏木如亭「即事」詩考」など、掌篇、雑文を含む十五篇を収録。出典をたずね、用例を確かめ、表現の一つひとつを可能なかぎり正しく読もうとする実証的研究の成果。
なお収録された文章の一部は本学の刊行する「人文学部紀要」、神戸学院大学人文学会機関誌「人間文化H&S」などに掲載されたものであり、さらにその源をたどれば学生のみなさんに聞いていただいた「人文の知」「作品論」「作品解釈」「作品批評」などの講義が基になっています。大学における学びは既知の学問体系の講述に留まるものでなく、つねに前人未踏の新見を求める知的営為であり、ひいてはそれが学術的な成果として学界に還元されてゆくことを知っていただければ幸いです。
(この書籍は人文学会出版助成によって刊行されたものです。)