Vol.8 (2005年7月)

教育の現場と学校カウンセリング

不登校やいじめなど、教育の現場は今、多くの問題を抱えている。教師は、そしてカウンセラーはそこで何ができるのだろうか?永年、カウンセリングを研究されてきた大日方先生に、ご自身の歩みから学校教育そしてカウンセラーの在り方について聞いた。
TEXT 速水友裕

 

 

障害児教育からその保護者への援助へ…。心理学を学ぶきっかけ

心理学を学ぶ前の高校時代は、歴史学に興味があったんです。でも、だんだん「今を生きている人間が何を考えて生きているか」ってことに興味が出てきた。つまり人間が過去にしてきたことへの関心から、生きている人間の心に関心を持つようになった。
東京教育大学(現・筑波大学)では、障害児教育を専攻していました。心理学の専攻でなかったのは、知的障害などの障害を持つ子供の心理やその教育の在り方にも関心があったから。と同時に障害児に効果のある教育の方法などを、心理学の面から研究するのも必要ではないか、と思っていました。
心理学の研究者になりたいという思いが固まったのは大学2年生の頃。学科の研究室に出入りするようになり、先輩や大学院生の実験の手伝いをしたり、研究会や読書会などに出させてもらいました。
大学院での専攻は教育心理学。学部生の時は研究室での研究が主でしたが、大学院では記憶や学習に関する課題を自分で作って小学校などに持って行き、子供たちに個別にやってもらってデータを集める、といった事をやっていました。教育心理学は幅が広く、障害児教育もそのひとつ。修士論文のテーマも知的障害児の心理についてだったんですが、そこから「知的障害児がどのように生活して、生きていけばいいのか?」ということ、特にその保護者の方の相談に乗るようになった。そういう経緯でだんだんとカウンセリングや心理療法について関心が広がっていったんです。
その後就職した大阪教育大学の心理学教室では、臨床心理学を教えていました。そこでは不登校児や緘黙児、いじめなどの人間関係に悩む子、また同じ問題でもケースごとにどんな援助をすればいいか、という事をカウンセリングをしながらデータを集めて研究していました。そういうところから、人間関係などいろいろなことで悩んでいる子供やその親御さん、高校、大学生などいろいろな心の悩みを抱えている人の援助活動としてのカウンセリングや心理学のことについて研究対象を移していきました。

 

治療だけではない学校カウンセリング

学校カウンセリングというのは、臨床心理士のような心理の専門家が行うものと、カウンセリングについて学んだ教師(教師カウンセラー)が行うもの、という二つに分類できます。
普通のカウンセリングでは治療を目的とするのが一般的ですが、学校カウンセリングではそれだけではなく、予防的カウンセリングというものが必要になってくる。つまり、子供に変化が出始めた段階から、教師は問題が大きくならないうちになるべく早く援助していく。深刻で大きな問題になってしまったら、カウンセラーに依頼して治療していく、ということが必要なんです。この場合も毎日子供たちと接する教師がそのような様子の変化に気づいてあげることが重要です。
そして、もうひとつ学校カウンセリングで特徴的なのは、人間関係などの能力や自己表現力を伸ばし、高めていく開発的カウンセリングと言われるものです。これは学級、学年といった集団でのゲームや話し合いなどにより、広い意味で子供を育て、教育するためのカウンセリングです。これらは学校カウンセリングならではといえるでしょう。
しかし、教師がカウンセリングをする場合は、子供が学業成績への影響などを気にして避けることもあるし、深刻な問題はやはり専門のカウンセラーに相談した方が良い。一方、予防的カウンセリングなどは教師がやるほうが幅広い対応ができる。だからこそ、それぞれの役割を連動していく、というのがこれからの学校におけるカウンセリングの在り方だと思いますね。

 

教師とカウンセラーにできること

今の学校は子供たちも先生も忙しい。たくさんのやるべきことを楽しめる子もいれば、かなりしんどいと感じる子も少なくない。そういう事も不登校児が増える要因のひとつだと思います。また、家庭では、兄弟の数も少なく、友達といっしょに外で遊ぶという経験も減ってきている。昔は自然に行われてきた集団生活の訓練が、なされてないまま子どもは成長するんじゃないでしょうか。学校の先生も、忙しくて授業以外で子供たちと関わっていくことができない。また、欲しいものがすぐ手に入る時代だから、我慢する力を身に付けないまま成長してしまう、という事も大きく関わっているような気がします。
> こういう時代だからこそ、教師とスクールカウンセラーは、お互いの役割を理解し、問題を解決するために、どのように役割分担をしていくかを話し合う必要があると思います。
悩んでいる子供だけでなく、教師の抱える問題に関してスクールカウンセラーが力になることも必要じゃないでしょうか。

 

どんな場面でも使えるカウンセリングの基本を学んでほしい

ゼミでは教育現場に限らず職場や家庭など、場面を限定せず役立つカウンセリングの基本を学んでほしいと思います。そうすれば将来どんな仕事に就いても役立つんじゃないかと思います。
今まで私は個人を対象とするカウンセリングや心理療法を主に行ってきたのですが、ゼミではグループカウンセリングを学んでもらうことも考えています。ただ話を聞いたり、本を読むだけじゃなく、自分で模擬的にやってみたり、カウンセリングの様子をビデオで見たりしたいと思います。論文も学生自身の希望を基本的に尊重し、カウンセリングや心理療法の基礎となるようなことを研究してもらう、というような形で考えています。
臨床心理学領域は多くの人が関心を持っています。しかし、臨床心理学は様々な心理学の上に成り立っている、応用性の強いものです。臨床心理学に興味があるなら、いろいろな心理学についてもきっちり勉強してもらいたいと思います。

 

 

大日方 重利 教授

人間心理学科 臨床心理学領域 大日方 重利 教授
1942年生まれ。東京教育大学大学院教育学研究科博士課程を単位取得満期退学。教育学修士。1971年から2005年にかけて大阪教育大学教育学部教員を務める。主な研究課題は学校カウンセリング、産業カウンセリング、カウンセリング・心理療法の理論。主な著書に『学校カウンセリング入門改定版』(ミネルヴァ書房)『学習不適応の心理と指導竏虫qどもをとりまく問題と教育竏秩x(開隆堂出版)などがある。