人文学部の用田政晴教授が新著『現場の博物館学を楽しむ―人文知の発見と成長―』(神戸学院大学出版会、2024年)を出版しました

用田教授は考古学・博物館学を専門とし、長らく滋賀県立琵琶湖博物館に学芸員として勤務したのち、2021年に本学に赴任されました。人文学部では主に博物館学芸員に関する科目を担当しておられます。

新著は、タイトルにもある通り「著者が体験した博物館・考古学・民具学研究活動の実際」を紹介しつつ「そこから『知の発見』につながる何かを見つけ出していただこう」という、「フィールド博物館学」の書(本書9ページ)。

博物館学の本といえば、歴史や理念、制度、統計的データといった抽象的な議論に傾きがちなものが多いなか、用田教授自身が実際に訪ねた国内外の博物館・美術館をていねいに紹介し、博物館学の視点から分析を加えてゆくという本書のスタイルは、たいへんユニークなものです。

 

取りあげられた「フィールド」は、手作りのぬくもりを感じさせる倉敷考古館(倉敷市)や伊吹山文化資料館(米原市)にはじまり、地域に根差して特色ある活動をつづけている熊本市現代美術館や利尻町立博物館、さらにはルーブル美術館(フランス)や上海博物館(中国)といった海外の有名な博物館までバラエティに富んでおり、学芸員の眼による鋭い分析にも読みごたえがあります。

 

また、かつての勤務先・琵琶湖博物館については「第4章 琵琶湖博物館の裏側」として40ページ近くがさかれており、著者しか知りえない「裏側」のエピソードを通じて博物館や学芸員のリアルな日常を知ることができます。博物館で働こうとする人にとっては、役に立つ情報がつまっているのではないでしょうか。

『現場の博物館学を楽しむ』に徹底しているのは、「まずは目の前にあるモノを観察し、分析することからはじめよう」という考えかたです。

理論から博物館を見るのではなく、個々の博物館をモノとして観察・分析しようとする態度は、用田教授のもうひとつの専門である考古学の方法論と通底するものでしょう。「学芸員の眼」を背後から支えるものは、じつは「考古学者の眼」であるのかもしれません。

著者は本書のなかで次のように語っています。「博物館を楽しみながら『人文知』をフィールド博物館で発見して、やがて『成長』させてみよう」(9ページ)。

博物館は、まさに人文知の宝庫。そして、知的成長のきっかけを担う施設でもあります。

多くの方々に本書を手にとっていただき、博物館と、人文学の楽しさ、奥深さを知ってもらえればと思います。

 

【目次】

序 章 考古学の「知の発見」と博物館

第1章 新世紀の博物館像は

第2章 さまざまな博物館を楽しむ

第3章 「水」がテーマの博物館活動

第4章 琵琶湖博物館の裏側

第5章 博学連携・地域連携とは

第6章 国際化と国際交流の試み

第7章 ヨーロッパの博物館事情をながめる

第8章 中国の博物館とフィールドに学ぶ

第9章 地域博物館はどこへ向かうのか

終 章 「知の成長」に向けて

 

A5判 232ページ 定価 2,000円+税 ISBN978-4-89985-234-6