Vol.31(2016年10月)

心理学との出会いと フォーカシング

 

英語力をいかして 仕事をしていたころ

大学は英文科で学んでいましたので、英語はできました。大学院に進学することも考えましたが、新卒で就職できるのも今しかないと思って、就職の道を選んでみたのですが、なかなか希望の就職先から内定をもらえず苦労しました。最初はメーカーに入りたくて…。〜社ぐらい受けたでしょうか、どの会社も最終までは残るのですが、落とされてしまって…。どうせ落とすなら、最初から落としてくれればいいのに、という気分でした。

あまりに何回も落ちるので、メーカーには向いていないのかも、と親や就職課に相談してみました。すると体温計で有名な某機器メーカーと航空会社2社の学校推薦枠があったんです。もともとはメーカーをめざしていたので次もメーカーかな、でも何度も落ちてきたしどうしようと、親に相談したところ、「お前は性格が地味だから、一度華やかな業界を受けてみろ」と言われました。すっかり自信を喪失していたので、親のアドバイスに従って航空会社を受けたら合格してしまい、入社しました。

しかし、入ったはいいもののまわりはその業界に憧れて入った人ばかりで、そのテンションに馴染めませんでした。華やかさの裏側には、厳しい上下関係があって、たとえば社員食堂に行くときでも先輩より一歩下がって歩きなさいとか。気にしない先輩もいたんですけど、それをやって当たり前っていう先輩もいて、人によって言うことが違うので混乱しました。そういうところがきつくて、入社3年目の夏に退社しました。

その後は英語をいかして通訳や翻訳の仕事をしていました。また、出身高校から、英語教員の欠員ができたからと声をかけていただいて非常勤で1年間働いたりも…。その後も5年間ほど翻訳の仕事を続けましたが、だんだんとマンネリ気味に。どうしようかな、と思っているうちに景気の影響で企業内翻訳者から在宅翻訳者になり、自分の自由になる時間が増えたので、ずっと勉強したかった心理学を学ぼうと思いました。聴講生として大学でカウンセリングの授業をとったのがはじまりですね。

 

池見陽先生との出会い

聴講生として受講した授業の先生が、たまたま現在の私の専門であるフォーカシングの第一人者の池見陽先生だったんです。先生の授業を受けていたら、大学院に行きたくなり、2カ月間集中して勉強し大学院に進学しました。進学した当初は、正直、「この先どうなるかわからないけど、イヤになったらやめればいいかな」という気持ちでしたが、気がつくと博士課程まで行ってしまいました。なぜそこまで続いたのかというと、なにより大きかったのは池見陽先生とフォーカシングに出会い、指導を受けたことです。先生との出会いがなければ今ここにはいないですね。

その後、臨床心理士資格も博士号も取得しましたが、なかなか正規採用の仕事が決まらなくて、4年間非常勤講師や非常勤カウンセラーをしていました。朝は兵庫県の大学で、午後は京都の大学で教えたり。中学や高校のスクールカウンセラーをしたり、企業のカウンセラーをしたりと…いろいろな仕事をしていました。日々、めまぐるしく仕事が変わり、手帳をなくしたら明日の仕事がなにかもわからないような状況。それがけっこうしんどくて、あと2~3年で決まらなかったらこの道はあきらめようかな、とまで思っていたときに、神戸学院大学に採用が決まりました。本学に来てからもう8年が経ちます。飽きっぽい私ですが、いつも新しいことに取り組む研究の仕事は飽きることがありません。

 

元気が出るフォーカシング

フォーカシングは、来談者中心療法で有名なカウンセリング心理学の大家であるカール・ロジャーズのお弟子さんのユージン・ジェンドリンがはじめた心理療法の技法です。

フォーカシングが開発されるきっかけとなったのは、カウンセリングがうまくいく人はどういう人なのか、という研究です。カウンセリングがうまくいく人は、自分の気持ちにていねいに触れることができ、それを言語化できる特徴があることが研究の結果わかってきた。そういうことが不得手な人に対して、自分の気持ちとのかかわり方を教えよう、というのがフォーカシングのはじまりですね。

フォーカシングはいろいろな状況で使えます。たとえばなにか決めるとき、人生でなにかを迷うとき、決めるための条件がいろいろありますよね。しかし、それらに関係なく、なんとなくこっちのほうが気になるってことがありませんか。そういうときに、なんか気になるということは、それなりになにか理由があるから気になるので、フォーカシングすることで、その答えを自分の中から見出していくことができます。フォーカシングは、人間関係でなにか引っかかっていることがあるときにも使える技法ですし、悩んだり困ったりしているときだけでなく、日常生活でも気軽に使える方法なんです。「フォーカシング指向心理療法」といってカウンセリングでも使えるし、健康な人を対象としたワークショップでも使えます。

よく企業の管理職研修の講師をします。そこでどんなことをするのかお話ししましょう。あれこれ忙しすぎて、大変なときってありますよね。考えるだけで、あれもこれもとなってできないとか、考えるだけで苦しくなるときがありませんか。そういう人を対象にフォーカシングを使った研修をします。どういうことをするのかというと…。机の上をイメージしてほしいんです。机の上にたくさん荷物を置いているとしたら、いざそこでなにか作業をしようと思っても、スペースもないし、ものをひとつ動かしたらすべてが崩れ落ちそうで嫌になるし、落ち着かないでしょう。そういうときは、ひとつひとつを、これはここ、これはここ、という感じで整理していく。すると、スペースもゆとりができるし気分も落ち着く—そういうイメージです。

では具体的にはどうするか。「今、自分の中にはどんな気になることがあるんだろう」と問いかけてもらって、絵を描いたり、付箋を使ったりして、自分の中の気がかりやたまっていることを整理してもらう方法があります。こころの中が「お片付け」されると、それだけでスッキリしたり、本当はどうしたいのか、に気がついたりします。これはフォーカシングの導入部分のワーク(「こころの空間作り」)を活用する方法です。

人はなにかやりたいことがあっても、時間がないとか、それをすると誰かに批判されるかもしれないとか、あれこれ考えすぎて、けっきょく自分が本当はなにをやりたかったのかがわからなくなり、自分がやりたかったことと違う選択をしてしまいそうになるときがあります。そこでフォーカシングを使うことで、「自分は本当はどうしたいのだろう」ということを探っていくことができます。そういうワークショップもやっています。

私が今取り組んでいる研究を紹介しましょう。今までは、ストレスマネジメントといえば、ストレスがたまっているのをちょっと楽にしたり、しんどい気持ちを整理したりしましょう、というアプローチが主流でした。しかし、現実にはちょっと気分転換したくらいではどうにもならない状況も多いのです。そこで、もうちょっと元気が出るようにするにはどうすればいいのかを考えています。ストレスを減らすというマイナスに注目したアプローチではなく、自分はなにがしたいか?なにができるのか?どうしたら元気が出るんだろう?ということを、フォーカシングを使って見出していく、というプラスの方向に向けた実践研究に取り組んでいます。どうですか。フォーカシングって楽しいでしょ。

 

取材:久木元 壱成

 

 

 

土井 晶子 教授

人間心理学科 臨床心理学領域

Profile
神戸女学院大学文学部英文学科卒業、神戸女学院大学大 学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科 学)、臨床心理士、認定フォーカシング・トレーナー、MBTI認 定ユーザー。 全日本空輸(株)大阪空港支店グランドホステス、(株)原子 力エンジニアリング社内翻訳者等を経て、2009年4月に神戸 学院大学着任。 専門はフォーカシング、カウンセリング心理学、産業メンタル ヘルス。