Vol.32(2017年3月)

シェイクスピア作品から見る人間の本質

シェイクスピア作品の魅力

 

シェイクスピアを専門に研究しているわけではない私が、なぜシェイクスピアに詳しいのか、まずそこからお話しします。
私の専門分野は、19世紀・20世紀のイギリスの詩です。当時の詩人たちがシェイクスピアは天才だと口々に言っている。なにがそこまで思わせるのだろうと。そんな疑問から読み始めたシェイクスピアですが、いろいろ読んでみてわかったことは「古い感じがしない」ということです、400年前の作品なのに。

シェイクスピアを知ることなしに英文学研究は始まらない。『源氏物語』を読まずに日本の古典文学を研究するようなものです。いわば必修科目です。
では、なぜシェイクスピア作品は古く感じないのか。
例えば、『ジュリアス・シーザー』は古代ローマを舞台にしたものですが、シーザーは信頼していた部下たちから裏切られて殺されます。そういう裏切りの行為は、現代のビジネスや政治の世界でもあり得ることです。直接殺すようなことはないにしても。また、『マクベス』では、王に忠誠を誓っていたマクベスが魔女から「あなたは領主になる、いずれ王になる」という予言を聞かされます。初めはマクベスも信じていなかったのですが、魔女の予言のひとつがその通りになったことから信じるようになり、最後は王を殺して自分が王になります。今でも、自分でもよくわからない奇妙な欲望や野心にとりつかれるようにして、とてつもない悪事に走ってしまう人っていそうですよね。『ロミオとジュリエット』は、敵対する名家の息子と娘の悲恋物語です。そういうケースは今ではめったにないことですが、なんらかの理由で禁じられた恋というのはあります。

 

 

他にもシェイクスピア作品には、人間の良い面と悪い面を両方描くことがよくあります。慈愛に満ちた人間でも時には憎悪が募り、人を殺めてしまうことだってある。それが人間ですよね。
人間の強さ・弱さ・美しさ・醜さなどを描いていて、シェイクスピアの作品はまさに「人間図鑑」のようです。
けっきょく、シェイクスピアが「古い感じがしない」のはいつの時代にも当てはまる問題、つまり人間の本質に関わる普遍的な問題を扱っているからです。

 

作品の楽しみ方

シェイクスピアは世界のさまざまな国で盛んに上演され、映画も作られています。舞台を現代に置き換えて作ったものもあります。
作品を楽しむには、見る前にあらすじや予備知識を得て、あの有名なセリフをどういうふうに言うのだろうか、人殺しの場面をどのように演じるのだろうか、そういう見方で楽しめるのがシェイクスピアの作品です。さらに鑑賞した後に本を読んでみる。そうするとシェイクスピア作品の面白さに必ず気づくと思います。
おすすめは、『ロミオとジュリエット』→『ハムレット』→『オセロ』→『マクベス』の順にみることです。それは、『ロミオとジュリエット』は10代、『ハムレット』は20代、『オセロ』は30代・40代、『マクベス』は50代というように年齢を重ねるごとに変化する男女の恋愛の様子を感じられるからです。

できれば演劇を見てほしいですが、まずは映画を見てください。『から騒ぎ※』(1993年制作)がおすすめです。冒頭で戦争に勝った男たちが馬に乗って帰ってくるシーンがあるのですが、その映像が素晴らしい。このシーンは芝居では表現できない、映画ならではですね。

 

 

 

〔写真〕 劇団シェイクスピア・シアター

シェイクスピアの全作品37作品の上演達成を目指し、1975年5月に立ち上げられた劇団である(1981年全作品上演達成)。1人の演出家によるシェイクスピア全作品の演出を手がけたのは世界初。以降、日本初のシェイクスピア専門の劇団として評価される。西洋の模倣が主流であった日本のシェイクスピア演劇に対して、ジーンズなど現代的な衣装を用い、等身大の感性で上演され、評判となった。
シェイクスピアは古典であるが、現代に生きる私たちの心に強い衝撃を与える。このシェイクスピア作品の持つ衝撃力を正しく読みとり、それを出来るだけ具体的に観客に伝えることを第一の目標にしている。

 

http://www2.odn.ne.jp/shkspr-thr/index.html

 

取材: 笠田 愛祐実 ・森岡 千晶

 

長谷川 弘基 人文学部教授

 

1998年 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程 単位取得満期退学
学術博士〔2002年2月(東京大学大学院)〕
近現代イギリス・アイルランド文学を主な研究分野としている。