Vol.34(2018年2月)

研究室のドアの横に貼られている「維新派」と「ピッコロ劇団」のポスター。ゼミの卒業生が出演しているもの。演劇とは切っても切れない関係が今も続く

演劇ウォッチャーとして 古典から若手の作品まで 見続ける

 

「古典芸能の現代化」を 研究テーマにしている伊藤茂先生は、 能、狂言などの古典芸能や中国演劇をはじめ、 新劇や小劇場運動、さらには最近の若手の演劇まで 徹底的に見続ける最強の演劇ウォッチャーです。 アナログ表現の最後の砦かも知れない演劇について 幅広く語ってもらいました。

 

中学校にあった演劇部。 顧問の先生の影響で演劇に!

私が通っていた中学校には当時めずらしく演劇部があったんです。中学2年から演劇部に所属して、そこの顧問の宮階延男先生が魅力的な方でした。そこから演劇に興味をもつようになり、演技することもありましたが、早くから役者は私には向いていないなと思い、脚本を書くことにしました。

高校でも演劇部に入り、演劇部や中学の後輩のために脚本を書いて上演してもらいましたが、これは得難い経験でした。

大学は、将来、高校の国語教師にでもなれたらいいと思って文学部に入学しました。国文学を専攻し、でも小説や詩といった文学ではなく、演劇・芸能を研究対象に選びました。卒論は、シンプルな構造をもつ狂言をテーマにしました。それが思いのほか評価してもらえたので、大学院に進学することにしました。

個人的には10年以上古典芸能に熱中した時代が続き、アマチュアで狂言の舞台にも立ち、たくさんの文章も書きました。そのうち古典芸能はやり遂げた感があって、もともと好きだった近代演劇を見たり、本を読むようになっていきました。  この大学には日本文学の教員として採用されました。文学よりも演劇がやりたかったという思いがあり、人文学部ができてカリキュラムを編成するとき、文学から演劇に軸足を動かしていきました。人文学部はいまも広くいろいろなことを学べるところだから、ひとつの芝居に狭めるのではなく、幅広く知識をもってもらおうと古典芸能から現代劇までさまざまな演劇に触れるようにしています。

 

役者の身体は デジタル化できない最後の砦

60年代後半は、「俳優座」「文学座」など戦後の新劇が一番輝いていた時代であり、また「早稲田小劇場」「天井桟敷」「状況劇場」などの小劇場運動が台頭した時代でもありました。これらの劇団が関西で上演したものは、ことごとく見ていましたね。演劇には、演劇にしか作れない感動があります。その瞬間を体験することは何事にも代えられないものだと思います。

 

ネット時代に演劇をやる意義ですか?

演劇ってとにかくアナログですよね。音楽などはデジタル化できても役者そのものはデジタル化できない。そこは最後の砦のような感じがしますね。難しくいえば身体性というか、自分で自分の体を実感する機会がだんだん減ってきている。その中で演劇やダンスは、自分の身体と向き合うことになるし、コミュニケーションの基本も、言葉と言葉ではなく、体と体なのかもしれない。演劇がそこにこだわっているかぎり、意外と長持ちするんじゃないかと思います。  研究室のドアの横に「維新派」のポスターを貼っていますが、それは私のゼミの卒業生が「維新派」に所属しているからです。この10年ぐらい全作品出ていて毎回見に行っています。卒業生の何人かが役者やミュージシャンになっていて、彼らの舞台やコンサートに行くのは私にとってノルマなんです(笑)。

 

研究室のドアの横に貼られている「維新派」と「ピッコロ劇団」のポスター。ゼミの卒業生が出演しているもの。演劇とは切っても切れない関係が今も続く

研究室のドアの横に貼られている「維新派」と「ピッコロ劇団」のポスター。ゼミの卒業生が出演しているもの。演劇とは切っても切れない関係が今も続く

 

いまのマイブームは 「木ノ下歌舞伎」です

学生に勧める劇団ですか?

 

 

「大人計画」や「NYLON100℃」などメジャーな劇団もいいですが、まだ若い30代半ばの人たちが中心の劇団「壱劇屋(いちげきや)」や「鹿殺し」、「FUKAⅠPRODUCE羽衣」などに注目してほしいですね。もうひとつ下の世代だと「子供鉅人(こどもきょじん)」という劇団もおもしろいと思います。

マイブームといいますか、いま私が毎回チケットを購入するのは「木ノ下歌舞伎」です。若い頃の私の研究テーマが古典芸能の現代化で、古典芸能が現代に生き残っていくにはどうしたらいいのかが課題で、なかなか答えが出せなかった。木ノ下裕一さん主宰の「木ノ下歌舞伎」は、講演のつど演出家や役者をプロデュースしていて、古典歌舞伎を現代風にアレンジした作品で、私が悩んでいたことをあっさりとパフォーマンスとして成り立たせている。それを見て、若い人はすごいなと思いましたし、やられたな、と思いました。

 

機会があれば 現場に行くのが一番

 

大学1年のとき、友達が夜行の汽車で東京に行くのを見送りに行ったのですが、一緒に行こうと誘われ、そのままサンダル履きでお金も持たず汽車に飛び乗ったことがありました。そして東京で初めて芝居を見ました。とても刺激的な体験でした。

行きたいと思ったら飛び込んでいく。今はネットでいろいろと情報が手に入りますが、やはり現場に行くのが一番です。20歳前後のときに見た演劇は、今でも鮮明に思い出せます。演劇でなくても、記憶に刻み付けられる若いときに、生の現場を体験して記憶を刻み付けるのは大切なことだと思います。私ぐらいの年齢になると、1週間前のことでもすぐに忘れてしまいますから(笑)。

 

劇団新感線が1987年、本校の森記念文化体育館で「おしのび公演」としてつかこうへいの芝居をしたときのチラシ

劇団新感線が1987年、本校の森記念文化体育館で「おしのび公演」としてつかこうへいの芝居をしたときのチラシ

 

 

 

文/笠田愛祐実  写真/比嘉 彬

 

 

伊藤 茂

人文学部教授 〈専門領域〉 日本の芸能・演劇

1949年生まれ。

神戸大学文学部卒業。 大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。 神戸学院大学教養部助手を経て、 1996年神戸学院大学人文学部教授。

2008年4月〜2012年3月人文学部長、2012年4月〜2016年7月副学長を歴任。