Vol.35(2018年9月)

国家や民族の枠に縛られず、 越境的ネットワークの視点で 世界史を捉え直す

 

今年の5月に新著『教養のグローバル・ヒストリー』を発刊されたばかりの北村厚先生。もともとは歴史(世界史)の教員になりたくて大学に行き、大学院に進んでから研究者の道をめざし、ドイツ近現代史を研究。そして高校教師として歴史を教えていたときに、グローバル・ヒストリーに興味を抱き、本にまとめ、これをきっかけに高校の世界史教育も研究テーマに。「歴史大好き」な北村先生に、歴史の魅力を語っていただきました。

 

高校教師自体の体験から 生まれた新著

──── 研究テーマについて教えてください。

 

研究している時代は、ドイツのヴァイマル共和国時代で、ナチスドイツの直前の時代です。第一次世界大戦後に共和国ができ、共和国がなぜナチスの独裁を許したのかということが気になりました。その中でも外交史を取り扱っています。

 

なぜ外交史なのかというと、私は歴史を広く捉えるのが好きなので、ドイツがヨーロッパの中でどういう役割を果たしているのか? ヨーロッパからドイツ全体を捉えるというヨーロッパ的視点に着目して書いたのが、博士論文で本にもなった『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』です。

 

────『教養のグローバル・ヒストリー』は、高校教師時代の経験がきっかけになったとか?

 

高校教師として世界史を6年間ほど教えていました。高校ではドイツの歴史だけを生徒に伝えるわけにはいかないので、古代から現代まで全部を生徒たちに教えていることになります。そして、高校の教師をしている中でグローバル・ヒストリーという歴史の見方に興味を持ちました。

グローバル・ヒストリーというのは「地球全体から見よう」ということです。スマホを開けば外国と簡単につながるように、世界が一体化してきているのに、外国は外国、日本は日本というふうに歴史を分けて捉えるのは時代遅れだということです。

そこから高校の世界史を違う見方で書いてみようと思い、今回の『教養のグローバル・ヒストリー』のもとになる原稿を、高校教師をしながら書いていき、それがこのたび本になりました。

今、高校での地歴科は大きな転換点にあって、新科目の「歴史総合」への準備が進んでいますが、この本は日本も含めて世界史を一体的に捉えようとしてるので、現場の先生方の助けになるような研究ができるのではないかと模索しています。

 

グローバル・ヒストリーの 起源は古い

 

────グローバル時代と言えば、大航海時代からのイメージですが、先生の著作では、そうではないと指摘されています。

 

「グローバル」を地球大のつながりと捉えれば、当然アメリカ大陸が他の地域との交流を開始した16世紀以降、いわゆる「大航海時代」ということになります。拙著でも16世紀のタイトルを「世界の一体化」とし、「グローバル・ネットワーク」が成立したと述べています。

しかし、グローバル・ヒストリーを民族や国家の枠に縛られない越境的ネットワークの歴史と捉えるのであれば、その起源は古くなります。拙著が紀元前のオアシスや草原の道から話を始めているのはそのためです。

 

また、グローバル・ヒストリーの特徴に、アジアの交易を重視するというものがありますが、それは世界史をヨーロッパがアジアを支配するという歴史に還元させないためです。

「大航海時代」は、ヨーロッパ目線の世界史を象徴する用語です。ところが、ヨーロッパが「大航海」に乗り出すずっと以前から、アジアの海は活発に交易をしていました。そのため拙著では「大航海時代」を使わず、「大交易時代」という用語を使っています。

 

今の私の研究テーマをまとめますと、ドイツ外交史、グローバル・ヒストリー、高校の世界史教育、この3つということになります。

 

歴史は暗記ではない。 おもしろいものです

 

────「グローバル・ヒストリーと神戸」について話をされたことがありますね。

 

グローバル・ヒストリーのもう一つの見方は、日本ではなく、地方に着目する、例えば神戸に着目するということです。神戸という枠組みに着目すると、神戸がいかに国際化していったのか、というのがわかります。世界と神戸がクロスする部分が見えることで、世界のグローバル化にもつながります。  地方に着目することで必然的に国境線をなくした歴史が見えてきます。それを「グローカル・ヒストリー」と言います。「グローバル」と「ローカル(地方)」をつなげた言葉ですね。そこで開港時代の神戸や横浜などを調べているときに、たまたま神戸学院大学で教える機会を得ました。非常にラッキーだと感じています。

 

 

────最後に、グローバル社会に生きる学生たちへのメッセージをお願いします。

 

今、大学では、歴史、西洋史を絡めながら「ファッションの文化」を学生に教えています。この授業では私自身も知らないことが多く、新しい勉強をどんどんしていくうちに、あらためて歴史はおもしろいと思えます。

学生たちに伝えたいのは、大学と高校での学習の違いは、歴史は暗記ではないということです。こんな見方があったのか、こんな考え方があったのかというふうに、もともと持っていた考えをひっくり返す体験をしてほしいのです。そして、「歴史はおもしろい」と思ってほしいです。そのためにも本が重要なので、本を読んで視野を広げてほしいと思っています。

 

取材・写真・文/田渕 樹

 

 

北村 厚

人文学部准教授 〈専門領域〉 西洋史、 ドイツ近現代史、 世界史教育

1975年福岡市生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。

2004年九州大学大学院法学府博士後期課程単位取得満期退学。2007年博士(法学)を取得。九州大学大学院法学研究院講師、法政大学法学部兼任講師、東京成徳大学高等学校専任講師(世界史)等を経て、2017年より神戸学院大学人文学部准教授 著書に『教養のグローバル・ヒストリー』(ミネルヴァ書房、2018年)『ヴァイマル共和国のヨーロッパ統合構想』(ミネルヴァ書房、2014年)等多数。