Vol.36(2019年3月)

サイレント末期にハリウッドで2番目に大きな配給会社「ファースト・ナショナル」も関東大震災後、神戸に移ってきた

ノンフィルム資料で 初期の日本映画史を研究

神戸は映画研究者にとって 最高の場所です

京都での大学時代に映画にはまり、 研究対象を二葉亭四迷から日本映画史に変えた上田学先生。 それもあまり解明されていない初期の日本映画史をノンフィルム資料で研究しています。 「神戸は映画研究者にとっても、映画ファンにとっても、恵まれた場所なんですよ」 その理由もたっぷり伺いました。さあ、あなたも映画館に行こう!

 

 

サイレント末期にハリウッドで2番目に大きな配給会社「ファースト・ナショナル」も関東大震災後、神戸に移ってきた

サイレント末期にハリウッドで2番目に大きな配給会社「ファースト・ナショナル」も関東大震災後、神戸に移ってきた

 

 

未開拓だった 初期の日本映画史を 研究テーマに!

──── 映画との出会いは?

もともと映画への関心はありませんでした。普通、映画研究者は、小中学時代から映画が好きだったという人が多いんですけど、私は千葉の田舎で育ったので、映画館もなく、映画を見なかったのです。

 

京都での大学時代は日本史を専攻していました。京都には映画館も撮影所もあり、そこで映画にはまりました。授業にはあまり出ず、映画館ばかりに行っていましたね。映画の中でも、とくにドキュメンタリー映画の魅力にひかれました。文字で歴史を描くよりも、映像で描く方が本当の人々の感情や歴史像を描けるのではないか。3年次までは二葉亭四迷の研究をするつもりでしたが、4年次に映画研究に切り替えました。

 

──── 映画といっても、研究分野は幅広いですよね?

 

そうですね。小学生ごろから映画を見ている映画研究者がいっぱいいたので、その人たちには到底勝てない。だから人がやっていないことをやろうと考えて、日本の初期の映画を研究することにしました。当時は大学の中にそういう研究をする人は誰もいませんでした。しかし徐々に初期の映画が関心を集めるようになり、私の研究も日本よりも、海外の日本映画の研究者たちが注目してくれました。

 

雑誌やポスターの ノンフィルム資料を 中心に研究

 

────研究室は、ポスターなどの資料でいっぱいですね。

 

従来の映画研究はフィルムが中心ですが、私はノンフィルム資料が中心です。チラシやポスターなど、従来は研究資料にならなかったものですね。例えば1910年代の日本映画は3000本近く撮影されていますが、現存しているフィルムは、一桁しかありません。日本はとくに残存率が低い。当時の日本は資源が少ないので、表面のエマルジョン(乳濁液)を落として、感光材を塗り直して再利用したりしていました。

 

日本史の勉強なんて何の役にも立たないと思っていましたが、映画の研究者は、くずし字で書かれた資料が読めない。そういう意味で日本史の勉強が偶然役に立ちました。大学時代に勉強していたことが生きてきた。学生の皆さん、勉強は無駄になりませんよ(笑)。

 

貴重な紙フィルム

                貴重な紙フィルム

研究から日本映画の特徴が見えてくる?

いまの映像文化は、実は古い日本映画と関わっています。昔の活弁が、今の声優文化とつながっているところがあります。洋画とかアニメの声ですね。だから過去の映像文化を知ることで、今の映像文化のどこが新しいのか分かってくる。ディズニーランドやUSJのライド型の映像は、もともとは明治時代からあります。比較することで日本映画の特徴を知ることができます。

 

また、欧米映画と日本映画を比べると、独自の表現が見えてきます。例えば、真正面からのリバースショット。顔が交互に映って、会話をする。真正面からのリバースショットは、基本的に日本映画に特徴的な表現です。小津安二郎監督の映画もね。今のアニメーションでも同じような表現をしています。

 

新京極で上映された3本立て映画のポスター

新京極で上映された3本立て映画のポスター

 

 

映画好きには、 神戸はとても恵まれた場所

 

────神戸は映画文化が古くから栄えた場所ですが。

 

神戸と映画との関わりですと、おもしろいテーマがあります。関東大震災の後に、海外の配給会社が東京から神戸に引っ越してきました。ハリウッドのフォックス、ユナイテッド・アーティスツ、パラマウントといった会社が神戸に極東支社や日本支社をおきました。関東大震災後の4、5年の間ですけど。  日本映画史って、何でも明らかになっていると思われますが、実際はまだ不明なことがあります。文学や歴史の研究だと、たいがい明らかになっていますが、映画は大学で研究されて日も浅いので、まだこれからいろんなことができます。もしかしたら卒業論文が国際的に注目される可能性もあります。

 

 

学生へのメッセージを!

────映画好きにとって、神戸はとても恵まれていて、35㎜の映写機をもっている映画館が、私が知っているだけでも5つ(神戸映画資料館、パルシネマ、元町映画館、シネマKOBE、アートヴィレッジセンター)。こんな地域は他にありません。しかも現在も上映しています。また、神戸映画資料館は、フィルムアーカイブとして国内で2番目に多いフィルム本数をもっています。映画を勉強したり、楽しむには最適です。学生の皆さんは、ぜひ映画館に足を運んでください。

 

 

取材・文/桝井玲香

 

 

 

上田 学

人文学部准教授 〈専門領域〉 映画史 日本思想史

1979年生まれ。

2003年立命館大学文学部卒、2010年立命館大学大学院文学研究科博士課程修了。2017年神戸学院大学人文学部准教授。