Vol.6 (2005年1月)
神原 文子

家族論、そして私の人生

「女」であること、「働く」ということ、「家族」・・・。女性にとって避けては通ることが出来ない問題に立ち向かう、神原先生。「横の繋がりを大切にしたい」その言葉に秘めらた裏側とは・・・・?
TEXT 渡壁裕子

 

 

生活者から見た家族

社会の中で人間がどのように考え行動しているか、社会が人間の考えや行動にどのように影響しているのか、逆にこれらの人間の考えや行動が社会をどのように変えていくのか、「人間」と「社会」の関係を明らかにしていくのが社会学です。その中でも、政治・産業・宗教などいろんな視点からのアプローチがありますが、私の専門は家族社会学です。
最近は、個人と家族の関わりについて、生活者中心の家族観というものが顕在化しています。具体的に言えば、自分らしい生き方の実現を支援するものとして家族を捉える。例えば「自分に合う人と出会ったら結婚してもいい。でも、法律婚にこだわらなくてもいい」というように、自分にとって、家族はどんな意味があるのかということを価値基準として家族との関わりを選択する。家族といえども「私」の自由な生活を妨げないことを期待する。家族の形成、再編、解消のいずれにおいても、個々人が「自分らしさ」を判断基準とする…といったことですね。このような生活者中心の家族観が広まれば、個々の生活者が志向する家族ライフスタイルはもっと多様化すると私は考えています。個人にあったいろんな家族のかたちがあっていいんですね。そして、ひとりひとりの家族ライフスタイルの実現を支えるのが社会の役割となります。
なぜ、家族というものを研究対象にしたかというと、自分自身の問題と重なっていたからです。結婚して夫婦になって子供が生まれて、そうすると自然と「家族」ってものに向き合いますね。そこで自分はどう生きるのか、その答えを見出したかった。

 

あらためて学問をこころざす

大学ではいろんな学問の中でも特に社会学に興味を持ちました。卒業論文では、『差別に関する社会学的一考察』というテーマで理論的な考察を行いました。考えてみると、私の人権論の原点です。
4年生になった頃、大学院に進むか就職すべきか迷いました。そこで指導していただいていた教授に相談すると 「進学するにしても、一度社会を見てきなさい」とアドバイスを頂いたので、内定をもらっていた大阪市役所に就職しました。仕事は教育委員会の今でいう生涯学習の事業担当。
その後に結婚し、家事や仕事に追われる日々が続き、「自分は本当は何がしたいんだろう?」と考えるようになりました。そして義父の「勉強がしたいのなら、すればいい」という一言に背中を押され、あらためて学問の道をこころざすことになりました。

 

子育て、そして夫の死

大学院では、結婚した女性が自分らしく生きるためにはどうすればいいか、という女性の自己実現を題材にして『主婦の自己実現に関する社会的考察』という論文を書きました。ひとりの女性として、主婦として、自分なりに納得のいく答えを見つけたかったんだと思います。いろいろ調べていくと、有職主婦が必ずしも仕事に対する満足度が高くないこと、多くの専業主婦が家庭生活に満足していないことが分かりました。この時に、自分らしい生き方ができないでいる女性がどれだけ多いのかということを実感しました。
論文執筆の終盤に長男が生まれて本当に大変でした。パソコンなどない時代でしたから、母乳を飲ませながら論文の清書してましたね。とにかく何か必死になって論文を書いてました。
大学院を修了した後、名古屋の大学に就職が決まり単身赴任しました。次男が2歳の時でした。名古屋と大阪の豊中にある自宅を行き来するという時間に追われながらも充実した日々を送っていた時、夫がガンで余命六ヶ月と言われ、一年十ヶ月後に帰らぬ人となりました。
夫が亡くなったことは、それまでの人生でもっとも大きな転機でした。それまでの私は、上ばかり向いて生きてきたように思います。たくさんの論文を書いて学会で発表するとか、人に認められたいとか、それが自分の生きがいだとどこかで強く思っていました。でもこの時、そんなものはどうでもよくなってしまって「生きる」ということや、人との繋がりの大切さを思い知らされました。
それからは、自然と横の繋がりをもっと大切にしたいと思うようになり、今ではシングルマザーの人たちやCAPという子どもへ暴力防止を伝える市民グループと関わりをもって、家族問題や子育て支援などの活動にも力を入れています。といっても、私に出来ることといえば困っている人たちの話を聞いて一緒に考えること。そしてそれを行政に伝えていくことくらいです。ささやかな行いではあるけれど、誰かがそういうことをしていくことは大切だと思います。この活動は人助けというよりも、頑張っている仲間たちから私が逆に元気をもらうという意味では、自分のためでもあります。繋がっていくということはそういうことではないかと思います。

 

データに基づいて考えることが基本

学生たちには自分の興味あるテーマを大切にしてほしいと思います。とは言っても、まず自分がいったい何に興味を持っているのか、という問題意識がないまま学んでいる学生も多いのが現実です。そこでまずは、自分のテーマを発見してもらうために、いろんな本を読んでレポートにまとめて発表することを繰り返します。読むことで知識を蓄え、書くことで文章の構成力をトレーニングし、KJ法やマッピング作業も課題として出します。少しづつハードルを高くしていって、最終的には自分のテーマを発見し、それを卒論で展開してもらえるように指導しています。
ゼミで常日頃言っていることがあります。それは、「どんなに偉い人が言ったことでもそれをそのまま信用してはいけない」ということです。その人がどういった根拠、データに基づいて論じているのか、それをいつも考えることが大切だと思います。なぜならこれは、「データに基づいて考える」という社会学の基本だからです。だから私のゼミでは、教室を飛び出して商店街などにアンケート調査やインタビューにしばしば行きます。社会というものを研究するなら、社会という「現場」に立つというのはごく当たり前のことです。学生には手法を教え、学生からは足で稼いだ現場の情報を教えてもらう。互いに真理を追究していく立場で、私自身、学生たちと共にこれからも成長していきたいと思います。

 

神原 文子(人間行動学科 教授)

人間行動学科 現代社会領域
神原 文子(人間行動学科 教授)
1949年大阪生まれ。京都大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程単位取得退学。博士(社会科学)。現在、ひとり親家庭の自立支援、しつけと体罰、家族の人権などをテーマに研究。主な著書に『現代の結婚と夫婦関係』(培風館)、『教育期の子育てと親子関係』(共編著、ミネルヴァ書房)、『教育と家族の不平等問題竏樗寘キ別部落の内と外』(恒星社厚生閣)、『家族のライフスタイルを問う』(けい草書房)などがある。