人文学部人文学科卒業生のみなさん
みなさん,御卒業おめでとうございます。
大学生活最後の1年は,とても経験値の上がった1年でしたね。いや,悔いが残った,という人は多いでしょう。卒業旅行にも行きたかった,部活やサークル活動を思い切りやりきりたかった,図書館が自由に使えていたらもっといい卒論が書けた,いろいろな思いがあると思います。我々教員も対面でもっとみなさんと接したかった。そういう思いはもちろんあります。
でも,それでも,「本当だったら…」という思いは引きずらないでほしい。「本当だったら自分はもっと…」といったことばかり考えてしまうと,今ここにいる自分が可哀そうです。新型コロナウイルスのないパラレルワールドに,キラキラ輝く本当の自分はいません。この1年,地味な,よくわからない状況を耐え忍び,それだけでなく入学から今までがんばってきて,ここにたどりついた自分だけが,本当の自分です。みんな,よくがんばりました。今ここにいる本当の自分を,まずは自分で認めてください。それが1つめです。
2つめ。みなさんには,これから,好きなように生きてほしいと思います。好きなように生きるということは,実はそう簡単なことではありません。暇さえあれば,動画をずっと見てしまう。SNSで皆に認められたい。それはほんとうに自分がしたいことなのか。自分の意見を言うのは怖いから,空気読んでやり過ごしておこう。ほんとうにそうしたいのか。社会の難しいことはよくわからないから,とりあえず自分がなんとなく楽しければいい。ほんとうにそんなふうに生きていきたいのか。好きなように生きていくためには,自分と向き合う必要があります。
そういったことを考えるとき,人文学部で学んできたことは,きっとみなさんを支えてくれます。みなさんは知らず知らずのうちに,いろいろなものの見方,考え方があることを学んでいます。それは,今後みなさんが自分らしく生きていくための力になります。どうぞ自分と向き合ったうえで,好きなように生きてください。
3つめに,特に今年度の卒業生だからこそ,みなさんに言っておきたいことがあります。人と関わることを怖がらないでください。もちろん,今は,新型コロナウイルス感染症の防止に努めることが大切です。今日も帰りに会食などはしないでください。
でも,そんな風に1年過ごしてきて,これから社会に出るみなさんのことが,私は心配です。対面で人と接することが少なくなって,正直,楽だなと思っている人も,いるんじゃないでしょうか。人と直接関わるのは,面倒な面があります。相手は自分と同じように感じたり考えたりしているとは限りません。でも,自分と違うからこそ,人と関わるのは素敵なことです。人は一人では生きていけません。他の人と関わることでしか得られないもの,生み出せないものがたくさんあります。それが社会です。自分と異質な人や物との出会いを大切にして,怖がらずに関わってほしい。当面,物理的なディスタンスは必要でも,実質的,精神的な意味で,人を遠ざける癖をつけないでほしい。これからの人生,出会いを大切にして,もっともっと大きくなっていってほしいと思います。
今ここにいる本当の自分を認め,好きなように生きて,人とも関わってほしいという話をしました。みなさんのこれからの人生が幸せなものであることを,人文学部教員スタッフ一同,心から願っています。もし,ひとりぼっちだと感じた時には,そのことを思い出してください。どうぞお元気で。
人文学部長 野田春美