2022年9月号
白浜に、ANCHORという働き方の拠点を
「ANCHOR」は、OS株式会社が白浜に設けたリゾートサテライトオフィスビルである。プロジェクトを立ち上げた淀友樹さんに、ANCHORにこめた想いやその経緯、仕事で大切にしていることなどを伺った。
取材・文/Y.A.
写真/山口美祐
Profile
1981年和歌山県串本町生まれ。大学卒業後、OS株式会社へ入社。映画館、ホテル、不動産
と異動を経験。2020年11月、新規事業として白浜町にリゾートサテライトオフィスビル「ANCHOR」をオープン。現在も企業誘致や雇用創出、地域連携など自治体・地域と一体となり町の活性化に取り組んでいる。
新規事業を立ち上げる
2020年11月、「ANCHOR」という施設が和歌山県白浜町にオープンした。淀さんが新規プロジェクトとして立ち上げた、「暮らしながら働く」をコンセプトにしたリゾートサテライトオフィスビルである。新型コロナウイルス感染拡大により密を避け、時間や場所に縛られない柔軟な働き方が加速し、ワーケーションのような自然環境が良い場所で働く意識も高まっている。
「ワーケーション」とは、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語であるが、その大きな特徴は働く場所が自然環境に優れた地方やリゾート地などの観光資源が整い、リラックスできる非日常的な環境である。
始まりは故郷への想い
なぜこの新規プロジェクトが開発されることになったのだろうか。その始まりは淀さんの故郷への想いにあった。
「私は和歌山県串本町生まれで、自然豊かな環境で幼少期を過ごしました。その影響で将来は串本町のような自然に囲まれた長閑な場所に住みたいと思っていました。新規事業を考える中で、自然豊かな地方が退職後に過ごす場所でなく、若年層が働き・暮らす場所にしたい、という願望を抱きました。そして色々調べると世の中には既にワーケーションという働き方があるのに、企業は都心の事務所で一日の天気の移り変わりも気にしない、この働き方が先々も変わらないのかという疑問を持ちました。新規プロジェクトを整理するうちに、地方自治体が抱える課題を肌で感じるようになりました。若年層の流出や高齢化など人口減少による衰退が深刻でした。そこで当社が地方に快適なオフィスビルを整備すれば都心から企業を誘致でき、雇用が生まれることで人口流出の歯止めや移住促進の切り口としても持続的に事業を展開していけるのではと考えました。オフィスビルに多くの人が定着すれば、飲食や宿泊需要など地域にも波及効果が期待できるなど、自治体が考える地域課題の解決策とも一致したため、意欲的に取り組むことができました。事業を立ち上げた一番のきっかけは自分の生まれ故郷への想い、つまりは生い立ちにあると思います。」
ANCHORを通しての学び
「私たちが地方に貢献するという立場ではなく、自治体、地域住民や地域関係者と対等に物事を進める、ということをいつも意識しています。私たちは地域の方のご協力がないと事業が成立しないので、地域の考えや歴史・文化を理解することが大切です。事業開始前には近隣の一つ一つの家を回らせていただいて、丁寧に取り組み内容をご説明させて頂いたことで、今でも応援していただいています。地域住民の方にご理解頂けたことがすごく励みになりました。事業化を進める中で様々な苦労はありましたが、和歌山県庁、白浜町役場、そして地域の方々と共に町を盛り上げる、という気持ちを今も大切にしています。」
淀さんにとって、このANCHORが社会人生活のなかで一番心に残る取り組みだという。たくさんの人と話す機会があると思うが、その中で大切にしていることは何かを伺った。
「お話をきちんと聞かせていただくこと。我々がしたいことだけを一方的に話すのではなく、地域に住まれている方にとっては、その施設ができることによる不安も当然お持ちだと思うので、そういった本音の部分をお聞きできるように心掛けています。一方的に私たちの考えだけを話していたら、受け入れてもらえなかったと思うので、世間話をしたり定期的にお伺いして人間関係を継続することが一番大切です。現在も白浜に行く度に、関係各所の方とお会いしています。」
言葉への意識
続いて人文学部での学びが社会に出てどう活かされたのか伺った。淀さんは野田先生のゼミに所属していたという。淀さんは不動産事業部に異動する前はOS株式会社が運営するホテルでフロント業務を行っていた。
「野田先生は言語を専門にされている方なので、コミュニケーションにおいて言葉が持つ力などを学びました。社会に出てからだとホテル勤務の接客時に役立ちました。
学生の時は自分が考えなく話す言葉で相手がどう受けとめているかはあまり意識せずに発信していました。しかし、それが友達であっても言い方一つで相手の心にどう響くかがコミュニケーションに重要であることを意識するようになり、そういう意識を授業やゼミの中で学べたので良かったです。白浜で事業を持続していく中でも、地域の方とのコミュニケーションは欠かせません。当たり前のことかもしれませんが、相手の話を聞き物事を理解すること、自分の想いや伝えたいことを適切な言葉で話すという意識は、野田先生のゼミで学ばなければ持てていませんでした。この言葉に対する意識が社会に出て大変役に立ちました。」
人文学部生へのメッセージ
淀さんが「神戸学院大学で本当によかった」と笑顔でおっしゃったことが印象的だった。
「不動産業界に異動になってから、神院会という不動産中心のOB会に入会しました。
神院会は神戸学院大学同窓会の公認登録団体です。その会は交流をきっかけに仕事に繋がる活動をしていこうという目標を掲げています。同じ卒業生ということもあると思いますが、皆さん優しくて、その人間関係に救われました。これだけ多くの卒業生と卒業後に出会う場があることに驚きました。大学を卒業したから一切関係がなくなるわけではないし、在学時に繋がりがなかったからといって繋がらないわけではないので、神戸学院大学に在籍したことが財産だということは、社会に出てからふとした時に気付かされました。みなさんも、いろんな方と在学時から繋がりを持っていただければ、社会に出てからもいろんな方と繋がりができると思います。学部や学年が違っても多くの方と交流を持っていただけたらいいなと思います。そしてその出会いを大切にしてほしいです。」