2021年3月号

接客が好き、旅行が好き。
だから旅行代理店のカウンターへ。

新型コロナウイルスの感染爆発は世界中に大きな衝撃を与えていますが、中でも人々の行動制限による観光業界への影響は大きく、多くの企業が苦境に立たされています。
そんな大変な状況下にも関わらず快く取材を受けていただいた、旅行代理店に勤務する小野智之さんの元へ2020年11月30日に伺いました。

取材・文/見坂侑哉

 

Profile

1990年神戸市生まれ。2013年人文学部人文学科人間環境コースを卒業後、観光系の専門学校へ。在学中に国内旅行業務取扱管理者(国)、総合旅行業務取扱管理者(国)の資格を取得。2015年日旅サービス㈱(現・㈱日本旅行リテイリング)に入社。川西アステ支店でカウンタースタッフとして接客、手配業務に活躍する。

 

コロナ禍でのカウンター業務の苦労

旅行代理店には、カウンター業務、添乗業務、営業など多くの仕事があるが、カウンター業務を担うのが、㈱日本旅行リテイリングだ。JR川西池田と阪急川西能勢口に隣接する巨大ショッピングセンター2階に小野智之さんが勤務する川西アステ支店がある。

日本政府は2020年10月にGoToトラベルキャンペーンを開始したが、コロナ感染症の第3波拡大によって再びブレーキをかけ始めた。相次ぐ政策変更により旅行関係者は、対応に追われる日々が続いていた。

「キャンペーン開始で急に申し込みが増えましたが、今度は、11月からキャンセルが続出して大変です。嬉しくない忙しさですよね(笑)」と小野さんは苦笑いを浮かべる。
コロナによって従来の接客はできない。お客様と対面するカウンターの中央は、透明アクリル板で仕切られている。そのうえ、店内でお客様が密にならないように電話予約を取った上で来店してもらっている。

「今までゆっくりお話をしながら相談を受けていましたが、いまは一組30〜40分程度。手配まで含めて1時間以内に終わらせるようにしています。時間内に決まらない場合は、次回の予約をしてもらいます」

透明アクリル板で仕切られたカウンターでの仕事風景

川西アステ支店

 

トラブル対応は大変。でもそれ以上に楽しみが多い

カウンター業務の基本は、お客様のニーズを聞いたうえで最適な旅行を提案すること。自社の商品に精通することは必要不可欠だ。そして旅行の詳細が決まれば、チケットの用意や旅館の手配をしなければならない。
「お客様が帰られた後の仕事が意外と多いんです。例えばお客様にもし食物アレルギーがあれば、命に関わることなので忘れずに情報を伝えなければいけません」
添乗業務にはトラブルがつきものであり、迅速な対応力が求められる。その点、カウンター業務はラクではと思って聞いてみると、そうでもなさそうだ。
「確かに旅行中にトラブルがあったときは添乗員と現地の会社が対応しますが、旅行終了後のケアは販売店ですることになります」
他にも、旅行前のさまざまな問合せにも答えねばならない。とくに台風が近づいてきたり、旅行予定先で災害が起きたときなどは大変だ。だからつねに最新の情報をこまめに収集しておく。
「大変なこともありますが、それ以上に楽しいことの方が多い。もともと旅行が好きで接客が好きだからいまの仕事を選びました。嫌な仕事なら長続きはしません」と言い切る小野さん。
何よりもお客様から新しい情報を得られるのは楽しいし、顔なじみのお客様が旅行先のお土産やお菓子を持ってきてくれたりするという。

 

すばらしい体験だったスペイン研修旅行

旅行好きの小野さんが入社前に出かけた海外は、イタリア、ハワイ、台湾など。だが、入社後は忙しくてまとまった休みがとれなくて、出かけるのも国内が中心だった。
ところが2019年、会社から1週間のヨーロッパ研修旅行に参加させてもらった。行き先はスペインだ。これは自社のツアーがパンフレット通りに行われているかどうかを確認し、また商品としての魅力を実際に体験するのが狙いである。
「マドリッド、トレド、バルセロナ、グラナダなどをめぐってきましたが、イスラム様式の建築もあり、光と影の対比が強烈で、日本とは風景も雰囲気もまったく違いますね。料理もおいしいし、すばらしい体験ができました。おかげでお客様にスペイン旅行を案内するとき、自信をもってお話ができます。できれば他の国にも行きたいですね」と笑みがこぼれる。

サグラダ・ファミリア/スペイン

アルハンブラ宮殿/スペイン

トレドにて/スペイン

卒業後に、旅行業界をめざして専門学校へ

ここで大学時代のことを振り返ってもらおう。小野さんは1年次生の後期からずっと矢嶋ゼミ生だった。
「うちのゼミは、生の声を聞いて、見て感じるために現地に行け!の主義でした(笑)。フィールドワークですね。播磨地区の合宿では地域の方と触れ合いながら聞き取り調査をしました」
その流れで卒論のタイトルは、「航空ネットワークと空港運営から見る空港の活性化」。地方空港の活性化をテーマに、松山空港や愛媛県庁まで聞き取り調査に出かけた。こうした経験が、今の接客の仕事にも役立っているという。
卒業後は、旅行業界へ進もうとしたものの、思ったような就職ができなかったため、観光系の専門学校へ進んだ。
「私が選んだのは旅行科の夜間部です。昼間は大手旅行代理店の営業本部で研修アルバイトをして、夜は授業です。現場の雰囲気を知ることができ、アルバイト代を学費に当てていたので、自立しながら学ぶことができました」
旅行業界で活躍するには、旅行の国家資格を取得した方がいいと学校側からも言われて猛勉強。結果、1年生の時に国内旅行業務取扱管理者を取り、2年生の5月にいまの会社から内定をもらい、9月に総合旅行業務取扱管理者を取得した。
「けっこう難しい資格ですが合格できました。ギリギリの点数でしたけど(笑)。就職希望先が決まっていれば、大学卒業後に専門学校へ進むのも一つの方法です。専門学校は就職先とのパイプも太いし、2年の春には就活ですから、あっという間です」と笑う。

台湾の人気スポットにて

希望する業界で、何をしたいかまで絞り込む

小野さんと同じように旅行業界をめざす学生へのアドバイスをお願いした。
「旅行業界をめざすのはOKですが、できれば旅行業界で何をしたいかまで絞った方がよいですね。旅行業界にもいろいろな職種がありますから。海外に行きたいなら添乗員や現地オペレーターの仕事があります。英語や外国語を勉強した方がいいでしょう。私のようにカウンターの仕事だと、交通・地理や切符の手配などの専門知識が求められます。そして法人営業なら、まずはコミュニケーション能力ですね」
そしてこれは他の業界でも同じことだという。希望する業界で何をしたいのか。まずそこを絞ることができれば、目標にたどり着くためのプロセスを考えればいい。
「いろいろ経験できる大学生の間にある程度、何がしたいかを絞ることができれば、その道に向かっていけると思いますよ」